11.地上への道

- まえがき -

ナイア像の部屋の隠し扉から、地上への道を進むほとりとクォーツは、水が止まるのを待った。


水が出ていた穴にベレノスの光を置くか迷う。


突然、その穴が塞がり、二人の進む道は……。




#裏道の真実


 クォーツに連れられて、ナイア像の裏側へ回った。


 四角い部屋の中央に像が立っているだけで、特に目につく物は何もない。


 クォーツは、クリスタル張りの壁を押す。


 長方形に切り抜かれたかのように壁が開いた。クリスタル張りで、しっかり目をこらされなければ、その境目はわからない。


 その先は階段になっていた。


 クォーツは、何の迷いもなく降りていく。ほとりも後を追った。


 階段を降りると、狭い洞窟が伸びいた。ところどころクリスタルが生え、光を放っていて、暗くはない。


 ほとりが抱えたベレノスの光とクリスタルは呼応し、まるで光が息をするように強く光ったり、弱まったりしている。


 クォーツの背中を見ながら進んでいくと、だんだんと勢いよく流れる水の音が聞こえてきた。そして、水が壁の穴から道を挟んで、向かいの壁の穴の中へと流れている場所へ辿り着いた。


 水の流れていく方からは光が差し込んでいる。


「向こうがテクリートのいる広場」


 ほとりは、光が差し込んでいる穴を指差した。


「そう。ここで私は水が引くのを待たされていた。でも、あっちにほとりがいるんだって思ったら、いてもたってもいられなくなって、水に飛び込んでた」


 クォーツは、他人事のように笑った。


「水の勢いだって強かったし、そんな危ない真似を」


「だって、早く行かないと、ほとりと会えなくなると思って」


「だからって――」


 ほとりはそこで言葉を止めた。


「なに?」


 クォーツが聞いてきた。


「……クォーツだって、見た目と違って、大胆な行動するよね」


「ほとりほどじゃないよ」


「私は、クォーツほどでもないから」


 二人は黙って見つめ合った。


 そして、どちらからともなく笑いがこみ上げた。洞窟内に二人の笑い声が響き渡った。




#光の置き場


 声を沈めると、圧倒的な静寂に包まれた。


 水は細い筋を作る程度で、ほとんど止まりかけていた。


 奥へ目をやると、水の流れに遮られていた地上へ行けるとされる道が伸びていた。


 左右の壁は、ぽっかり穴が空いている。


 ほとりは、左側の穴を覗いた。すっかり水の引いた納天姫祭の広場が見えた。そこからは、テクリートの姿を見つけることはできなかった。


「ほとり」


 クォーツは、水が流れ出てきた穴の中をのぞき込んでいた。ほとりものぞき込むと、穴がずっと上に続いているように見えた。しかし、途中から真っ暗になってはっきりとはわからなかった。


「ここにベレノスの光を置いておくんだね」


 しかし、ほとりの問いにクォーツは答えず黙った。


 クォーツがベレノスの光を地上へ持って行くべきか、ここへ置いていくか考えているように思えた。


 カラ、カラ、コツ、コツ……と小さな音がどこからか聞こえてきた。


「ほとり――っ」


 ほとりは、突然クォーツに突き飛ばされるようにして、倒れ込んだ。


 その瞬間、強い衝撃とともに土煙が舞い、爆発音にも似た音が耳をつんざいた。




#地上への光


 倒れたほとりは、背中の水の羽がクッションになった。しかし、抱えていたベレノスの光が、覆い被さってきたクォーツに押され、腹部にめり込んだ。


「痛い」


「ごめん、大丈夫?」


 クォーツがすぐに体を起こした。


「う、うん、平気。いったい急に――」


 クォーツの背後を見たほとりの表情が固まった。クォーツも振り向いた。


 二人は言葉を失った。


 目の前が壁になってしまっていた。二人が見ていた水の通っていた穴すら見当たらず、神殿へ向かう道は失われてしまっていた。


「何が起きたの……」


 ほとりが言った。


「広場の方から、崩れたがれきが穴を塞ぐように元に戻っていたのが見えた。そして、テクリート様が元の石像姿になって壁に向かってきていた」


「この壁は、その石像の……。水をここでせき止めていたんだ」


「そうみたいだね」


 クォーツは立ち上がって、今今できあがった壁に触れた。


「私たちがここにいても、納天姫祭のように、反応しないね」


「生け贄を食べたら、しばらくはずっと石像のままなのかも。水を貯めるために」


「ねぇ、私たち、どっち側にいるの?」


 ほとりは辺りを見回して聞いた。


「たぶん、地上への道側だと思う」


 差し伸べられたクォーツの手を取って、ほとりは立ち上がった。


 二人は閉ざした壁に背を向ける。クリスタルの光が二人を導くかのように、道が続いている。


「行こう」


 クォーツが言うと、前を歩き出した。


 洞窟は、わずかな上下の勾配はあったが、ほぼ平坦で、地上に向かっているようには思えなかった。かといって、神殿に戻る道でもなかった。


 この地底がどのくらいの深さにあるのかはわからない。地上に出れるまで、どのくらい時間がかかるかもわからない。


 長くなる旅の準備はほとんどしてこなかった二人は、飢え死にするのではないかと不安を募らせた時だった。


 クリスタルとは違う七色の光が先に見えてきた。


 洞窟の穴を塞ぐように、光のカーテンが揺らいでいた。


「そういうことか……」


 ほとりは安堵して言った。


「えっ、どういうこと? これ以上先に進めないの?」


 焦るクォーツにほとりは笑顔を見せた。


「これは、別の場所とつながっているゲート。これをくぐれば、地上に出れる」


「体が消えちゃったりしない?」


 初めて見るその光にクォーツは不安を抱いていた。


「大丈夫。私、何度も通ってるから」


 ほとりは、クォーツの手を握り、ゲートの前で立ち止まった。


「一緒に行くから、大丈夫」


 二人は、同時に七色の光のカーテンの中へ入っていった。


第4章 地底ミクトランの天姫 終わり

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