第5章 影の気配・俺、考える
第26話 疾走・風になれ!
『どうしたローサ、何があった!』
『獣人の街が襲われているのよ。今はまだ私の魔法で何とかしているけれど、このままだとあと1日持つかどうか。お願い』
なんだと。
俺は飛び起きる。
『場所は?』
手早く服を着替えながら尋ねる。
『トンロ・トンロよ。移動魔法のアンカー設置してある?』
しまった、一度行っておけばよかったか。
『ない。出来るだけ急いでいく。3時間くらいかかる』
『お願い! 敵は私と同等クラスのチート魔法使い1人と軍隊2個小隊程度。所属は紋章等が無くて不明。今は街の周りを囲まれていて塀と獣人の力でしのいでる。敵魔法使いのせいで私の攻撃魔法が通らないし私の防護魔法でないと護れない。私の魔力が切れたら危ない状態よ』
社員と同等クラスのチート魔法使いか。
思いつくのはあのファナの村で出会った男だ。
実際あの男かどうかはわからない。
でも状況はかなり悪い。
『わかった。急ごう。それまで何とか持ちこたえてくれ』
『ありがとう』
そんな事をしているとファナが起きて来た。
「サクヤ様どうされたのですか」
「ちょっと出かけてくる。2~3日かかるかもしれないけれど待っていてくれ」
「私も行きます」
「駄目だ、今度は危険だ」
「何があるんですか」
誤魔化そうか正直に答えようか一瞬考える。
「この近くの獣人の街が襲われたらしい。俺と同等の力を持つ奴も敵にいるそうだ。今、
「ローサって……この前の行商人さんですか」
「あいつも俺と同じ任務持ち、神から力を授かっている1人だ」
「そうだったんですか」
それだけで概ね状況が掴めたらしい。
「私もついて行きます」
「危ないぞ」
「サクヤ様のそばが一番安全です。獣人狙いという以上、私も狙われるかもしれませんから」
何でそういう結論になるんだ。
そう思ってすぐ思い返す。
そう言えばあの時の敵はファナを狙っていた。
この村に置いておいて本当に安全だろうか。
これから行く場所の方が遥かに危険は多い筈だ。
でもここに置いておいて安心できるか。
俺にはどうしてもここに置いた方がいいと決められなかった。
理性ではわかっているのだけれど。
それでもファナが見えない場所にいるのは不安なのだ。
「わかった。じゃあ急いでくれ」
「はい」
本格的に戦闘をするならフル装備の方がいい。
でも途中走る事を考えたら軽装の方が楽だ。
ちょっと迷って軽装の方に決める。
最悪の場合は移動魔法で取りに帰るまでだ。
あとは使用人に一筆書いておこう。
2~3日戻らないかもしれないと。
何もなしに居なくなると不安だろうしな。
「私はこれで大丈夫です」
ファナも準備が出来たようだ。
「なら行くぞ。まずは移動魔法で途中まで行く」
ファナがかつていた村からだと移動距離が半分程度になる。
◇◇◇
ファナがいた村から走ること約2時間。
俺の
「ファナ、大丈夫か」
「これくらいは大丈夫です」
見かけよりタフだよな、ファナは。
走る速度も俺と同等以上だし。
前方に生命反応の集団を確認。
手前の方が襲撃側、奥が街だろう。
このままだと襲撃側の真裏に出るな。
迂回しようかとも思ったが考え直す。
むしろこの方が都合がいいかもしれない。
『ローザ、間もなくつく。ちょうどいいから敵の裏側から一戦仕掛ける。適当に場を荒らしたらそっちに入る。入る時の援護を頼む』
『わかったわ。ところで一緒にいるのは誰?』
『俺の娘だ。この前会っただろ』
『娘……ああ、ファナちゃんね犬獣人の。わかったわ。でも無理はしないで頂戴』
『了解』
敵の陣地まで約5キロ。
そろそろ気付かれる距離だ。
先手必勝とばかり俺は魔法を繰り出す。
『強風』
その名の通り強い風が吹きつける魔法だ。
雨期で霧雨が降っている事もあり、視界が一気に悪化する。
よしよし。
「ファナ、ちょっと失礼」
ちょっと速度を落として走り込んできたファナを両手で抱える。
いわゆるお姫様抱っこという奴だ。
こうやってファナをニルカカへ連れてきてまだ半年経っていない。
でも結構成長したなと重みで感じる。
「えっ」
「じっとしていろ、一気に行く」
『強風・加速』
今度は敵へ攻撃をかける為ではなく、俺自身を加速させるための風魔法。
視界を荒らし敵兵士をなぎ倒しつつ一気に駆け抜ける。
ふと倒れた将校風の横顔に視線がいった。
こいつは!
とっさに出て来た色々な思考をとりあえず俺は抑える。
今は色々考える時間は無い。
幸い近くにはチート持ちの敵の気配は感じない。
好機だ。
敵部隊を薙ぎ倒した後俺はローサへ
『風魔法で塀を飛び越える。攻撃しないよう連絡してくれ』
大抵の攻撃は魔法で弾く事が出来るが念のためだ。
『了解……伝達したわ』
『行くぞ』
風魔法で更に加速し、俺は街の周りを囲っている木の塀を飛び越した。
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