第27話 敵との再会

 塀の向こう、歩行者道と思われる石畳の上に無事着地。

 抱えていたファナを下ろす。

 警戒中と思われる獣人兵1名が走って来た。

 灰色の犬系の獣人だ。

 右手に短く槍を構えている。


「これでも味方だ。ローサから呼ばれた」

 取りあえず両手を上げて敵意が無い事を示す。


「ああ、サクヤさんか。話は聞いている」

 彼は槍先を下におろした。

 良かった、話は通じていたようだ。

 

「それでローサは?」

「今は反対側の塀の外だ。敵の魔術師と闘っている」

 何だと!

 ローサだって俺と同等のチート持ちの筈。

 なまじの魔導師程度なら問答無用で倒せる。

 それでも戦いになるレベルというと敵は俺達と同等かそれ以上。

 つまりかつて俺が出会ったあの敵かその同類だろう。


 走査してみると確かにこの先で巨大な魔力の反応がある。

 更に詳しく見ると2人は現に戦っている最中だ。

 今は敵がこの街を火炎魔法で襲い、ローサがその魔力をはじいている状態。

 これくらいの距離なら俺も戦闘可能だし短距離伝達魔法チャットも可能だ。

「介入してくる」

 俺はファナに一言そう告げ、意識をローサと敵の方へ向ける。


『来たぞ、ローサ』

 対峙している敵にも伝わるように短距離伝達魔法チャットを飛ばした。

 敵が視力では見えない筈のこっちに顔を向ける。

 黒い1枚布のコート、ごつい顔。

 間違いない。あの時の敵だ。


『悪いがこれで2対1だ。退いた方が無難だぞ』

『そのようだな』

 敵は火炎魔法を解く。

『今回はこちらに運が無かったという事か』


『何が狙いなの!』

 ローさが問う。

『世界へと干渉する神を除き、正しき世界を取り戻す事』

 奴の返答は短距離伝達魔法チャットでも抑揚を感じられない。

 そう言えば奴は以前、自分を別の神の使徒と言っていたな。

『その目的と獣人を滅ぼす事、怪しい儀式をする事とは何が関係あるんだ』

『君とは前に会った事があるな。そうか、あの大斜面中程の廃村か』

 奴は俺達と同等に『遠視』を使えるようだ。

『この世界は呪われている。悪しき神々により都合がいいように操作され、歪んでいる。君達はその事実を知っているのではないか』


『それを知っているなら逆らう事が無意味なのはわかるでしょう。仮に神に逆らうにしろ、獣人を狙う意味は無いでしょう』

『それは君達の知識や認識が間違っているからだ』

 奴はそう言いきる。

 無表情の中に僅かに嘲りの表情が見えたような気がした。

『ここは『アウカルナ』世界群の一つ『プルンルナ』世界。それは是としよう。

 だとしても君達が本来いた世界はここ『アウカルナ』世界群の外の世界だろうか。君達がここでは神と呼んでいる、君達の雇用者は『アウカルナ』世界群の外の存在だろうか。彼らは本当に『アウカルナ』世界群を作った存在だろうか。ただそう自称して世界に干渉しようとしているだけではないだろうか』


『確認が不可能な問いだな』

 何せ『我思う故に我在り』すら確かではない仮想世界だ。

 だから俺は奴の問いかけをそこで打ち切り別の質問を投げる。


『連れてきているのはティワナク王国の部隊だな。何を企んでいる』

 この街に入る前、魔法でなぎ倒した奴の一人に見覚えがあった。

 軍にいた頃の顔見知りという設定の奴だ。

 生憎仲が悪かったのであまり詳しくは知らないが、奴がティワナク王国の軍人であることは間違いない。


『奴らはたまたま目的が同じだったから利用したまで。だが今思うに奴らと共に行動したのは失敗だった。我1人ならばより早くここを落とせただろうに』

『なら何故連れて来た』

『彼らもまた生贄だ。世界の変革を近づける為の』

『世界の変革とは何だ』

『真なる神の降臨』

『何だそれは』

『じきわかることだ』

 ほんの少し間を置いて、そして奴は続ける。


『今回は我は去る事にする。ただ進められるべき駒は進めさせて貰おう』

 その台詞に俺は不吉な響きを感じた。

障壁ピラクァ!』

 とっさに防護魔法を展開する。

 範囲は俺が感じている獣人の街全域。

 一呼吸遅れてローサも俺と同じ魔法を展開した。


 間一髪という形で魔法の嵐が辺りを襲う。

 この前の炎の魔法ではなく、風、それも強力な鎌鼬を発生させる魔法だ。

 辺りの木々が、岩が、全てが切り刻まれていく。

 しまった、ここを襲った兵隊達は。

 気付いたがもう遅い。


 風魔法は唐突に止む。

 既に奴の気配は何処にも無い。

 残ったのは切り刻まれた灌木林の跡と隠せない血の臭い。

 完全に切り刻まれていない理由はおそらく死の恐怖と絶望を与える為だ。

 生の気配が街の外からばたばたと消えていく。


「サクヤ様! 大丈夫ですか」

 ファナの声でふと我に返った。

「ああ、大丈夫だ」

「でも今、塀の外で凄い轟音と悲鳴が聞こえて、そして血の臭いが……」

 獣人であるファナには関知できたらしい。

「ああ。奴の仕業だ」


「奴とは何ですか」

 横にいた獣人兵が俺に尋ねる。

「先程までローサと闘っていた魔術師さ。俺達の敵だ」

 これ以上の説明は今の俺にも出来ない。

 どうやら事態は思った以上に色々複雑な状況のようだ。

 レポートを出す前に整理した方がいい。

 まずはこの村で聞ける情報は聞いておこう。

 どこまでの情報があるかは俺にもわからないけれど。

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