第20話 結論・ファナが可愛い
ファナも泣き止んだので昼食の準備。
といっても暖かいスープを作るだけである。
お弁当はそのまま持って帰ってきたから。
ファナに任せるとスープでも何でも肉が入るのは獣人故のご愛敬。
まあ俺も肉は好きだしな。
それにこの季節ならファナは狩りで色々捕まえてくるし。
この前獲ったガナコの肉だってまだまだ在庫がある。
問題は無い。
さて、昼食で。
ファナにもある程度事情は話しておこうと思う。
ただ話せない部分をどうしようか。
例えば此処が作られた世界であるとかいう部分等。
少し考えたが下手なごまかしはしない事にした。
ファナは俺が思っている以上に聡い子だ。
だから嘘は言わず、話せない部分は話せないで通しておこう。
「説明だけれどさ。まず前提として、この世界には神がいる。それも王や祭司が説いているような神とは少し違う神だ。大雑把な天候とか気温の上下等は操る事もあるけれど基本的に何でも思い通りに操ったりなんて事はしない。場合によっては王や影響力のある人間に直接語りかけたりする事もやるらしいけれどな」
「それで王家が説いている神と何処が違うんですか」
確かにさっきの説明だとやっている事は同じように見えるよな。
「例えば結婚して天地創造したとか神の子孫を王家として地上に使わせたとか、そういう直接的に関わるような事はしない。生贄を受け取ったりなんて事もない。神にとってそれらは無意味な行動なんだ。基本的にはただ天候等を調節して、場合によっては社会を少し変革させて世界の動きを見るだけ。それ以上の介入はしないし出来ないと言っていい。
あとは全知全能とかそういった能力も無いな。天候とか気温とか操作できるものが大きいだけで、思考その他はそれほど人間と違う存在じゃない」
「サクヤ様は神に会った事があるんですか」
「その1人にだな。力を与えるからその代わり神の手伝いをしろという感じだ。その辺の任務の細かい事は言えないけれどさ」
「伝説の勇者様みたいなものですか」
おいちょっと待った。
「そんないいもんじゃない。それに俺1人じゃなくて何人も同じような存在がいるらしい。その辺詳しい事はよく知らないのだけれど」
「でもサクヤ様が神に勇者に等しいような力を授けられているのは本当なんですね」
「実際はファナの方が獲物を探すのが上手だったりするけれどな」
「それでサクヤ様は色々な魔法が使える訳なんですね」
ファナはそう言って少し考えて、そして口を開く。
「やっぱりサクヤ様は凄い人だったんですね」
「たまたまそういう事をしているだけで、俺自身が凄い人って訳じゃない」
俺自身は本当に大した人間じゃないのだ。
普通の会社員を続けられなかった程度だし。
「ただ問題なのは向こうで会ったあの男だ。奴はおそらく俺と同じ程度の力を持っている。でも目的が全く分からない。少なくとも俺の目線から見て限りでは」
「何か他の神に仕えているとかそういう事は無いのでしょうか」
「この世界の構成上、利害を別にする神なんて存在がいるとは思えない。それに生贄を使った儀式なんて物の意味もわからない。本来ああいった儀式はこの世界の権力者や住民が権威誇示とか社会の平穏の為にシンボルとしてやるだけだ。本当の神という存在には意味のある事じゃない。強いて言えば不安を広める為なんて目的だけれども、だったらあんな人が他にいないような辺境でやるのは変だ」
「ううーん、その辺の事は難しくてよくわからないです」
「俺もよく分からない。もう少し材料がそろってから考えるしかないだろう。そんな訳で説明終わり。だからファナも何か妙だと感じた事があれば教えてくれ。俺は平穏に暮らせる世界が続くことが目的だからさ」
とりあえず向こうの世界の事とか大魔王の事とかは話していない。
でもそれ以外は概ね事実を話せたと思う。
「つまりこの世界が平穏であることがサクヤ様が神から与えられた使命なんですね」
「ああ、そうだ」
「ならやっぱり勇者様じゃないですか」
「だから違うって。同じような人間は他にもいるし」
「勇者さまだって何人かいても不思議ではないですよね」
まあ確かにそうだけれどさ。
「でも勇者様が何故こんな処で農家をやっているんですか」
「勇者じゃないって。でも理由は簡単さ」
その辺は何となく答えは考えてあった。
「兵士や騎士じゃ自分の為以外にも戦わなければならない時だってあるだろ。商人は年中忙しくて調査なんてする暇は無いだろうし。これくらのの農家が一番いいかな。必要以外に戦わないで済むしさ。何かあればエリクとかに仕事を一時的に任せておけばいいし」
「偉くなろうとかは」
「これで充分さ。不自由も無いしね。ファナも可愛いし」
あ、ファナ、真っ赤になっている。
久しぶりにファナに勝てたかな、口で。
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