第19話 移動魔法での帰還
「消えました」
ファナの言うとおりだ。
奴の存在が今この場所から消えた。
歩いてとか走って移動したのでは無い。
明らかに移動魔法を使っている。
やはり奴も俺と同じくチートな存在のようだ。
思い切り疲れを感じた。
ログアウトしてデ●ス飲んでそのまま寝てしまいたいところだ。
でも狙われていたのはファナなのだ。
万が一を考えると油断は出来ない。
俺も帰りは移動魔法を使った方がいいな。
ニルカカ村にいることを出来れば知られたくない。
そう思ってふと思いつく。
移動魔法用のアンカー、この村にも仕掛けておいた方がいいかもしれない。
アンカーがあれば移動魔法を使用していつでもその地点へ移動することが出来る。
アンカーがある地点付近の気配を調べたりなんて事も可能だ。
今はニルカカ開拓村の俺の家裏側倉庫に仕掛けてあるだけだが、俺の魔力なら全部で31個までアンカーを仕掛けておくことが出来る。
設置数に余裕があるからここにも念の為仕掛けておこう。
「ファナ、この村の中心に一番近くて、かつ姿を隠せそうな場所は無いか」
言ってみて妙な質問だよなと思う。
「広場の祈り石の裏付近がいいと思います」
ファナは何も聞かずに案内してくれる。
でも一応説明しておいた方がいいよな。
「これから移動魔法用に場所を憶えておこうと思うんだ。その場所を憶えておけば次に行くときは移動魔法を使って移動できる。まあ最大で31箇所までしか憶えられないけれどな。その為の場所だ」
「サクヤ様は移動魔法まで使えるのですか」
ファナが驚くのも無理は無い。
「ああ、今、奴が使ったようにな」
そう言って、それから続ける。
「家に帰ったら説明するよ。他の人には秘密だけれどさ」
ファナに何も知らせないという選択肢もある。
でもそれでは彼女を守り切れない。
ファナが案内してくれた場所は確かに色々ちょうどいい場所だった。
祈り石と呼んでいた大きな石の裏で、周りには大きめの樹木も茂っている。
位置的に村の中心部に近くてかつ周りから見えにくい場所だ。
「確かにちょうどいい場所だな。ありがとう」
「何か特別な儀式か何かが必要ですか」
「いや、ただこの場所を強く認識しておくだけ。それで次からは移動魔法でここに来ることが出来る」
何せ演算空間だからな。
それくらいの事は出来る。
31箇所というのはメモリかレジスタか何かの制限だろう。
「それじゃファナ、家に帰るぞ。奴に場所を知られたくないからこっちも移動魔法で帰る」
「わかりました」
家の裏付近は……誰もいない。
更に範囲を広げて確認する。
一番近いところにいるのは使用人のイバンだが、それでも堆肥製造場所付近。
つまり今なら移動しても誰にも感づかれない。
「じゃあちょっと目を瞑っておいてくれ」
俺は移動魔法を起動した。
家の裏側の物置内に移動する。
人の気配は無い。
灯火呪文を起動した後。
「もう目をあけていい。家の裏の物置の中だ」
ファナはおずおずと目を開け、辺りを見回す。
「本当だ。お家の物置です」
「という訳で家に帰るぞ。お弁当は家で食べよう」
そう言ったところでファナの動きが止まった。
「あのお家、無くなっちゃったんですよね」
そうだった。
ファナが生まれ育った家がまさに焼け落ちたのだった。
どう声をかけよう。
今はこの家がファナの家だ、という誤魔化しは俺的に好きじゃない。
ファナが育った家が燃えてしまった事実は変わらないのだ。
思い出に残っているなんて言い方も好きじゃない。
でもそうだとしたらどう声をかけてやればいいのだろう。
「大丈夫です。でもちょっとかけ、ちょっとだけここにいてもらっていいですか」
ファナはそう言って俺の胸に頭を預ける。
俺は泣きじゃくるファナの頭をただただ撫でる事しかできなかった。
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