第18話 敵の出現
「ほかの村の人も同じようにお墓に入れてあげていいですか」
「そうだな」
という事で各家を回っては浄化し骨を袋に入れお墓に納めるを繰り返す。
30軒ほどあったので何やかんやで2時間以上かかってしまった。
「すみません。お時間をかけて」
「いや、俺もいつかやらなければと思っていた。今は簡単にしかできないけれど」
「でもこれで少しは私も心の整理が出来たような気がします」
ファナのこういう処は外見相応とは思えない。
もっとずっと年上の反応に見える。
「とりあえずお弁当を食べて、それからちょっと本とか家から借りていいか。他に獣人の村があるか知りたいから」
「そうですね。でしたら私の家で食べてもいいですか。これがあの家で食べる最後のご飯になりますので。死体があった家なんてサクヤ様には気持ち悪いかもしれませんけれど」
「大丈夫さ。それに外よりは暖かいだろう」
ここはニルカカ開拓村よりは大分高度が低く気温も5度くらいは暖かい筈。
でもこの季節はやっぱり寒い。
風があたらない方が暖かいし、ちょっと魔法を使えば更に暖かくなる。
家に入り一度魔法で換気をして、更に清拭魔法で部屋を綺麗にした後リビングのテーブルにつく。
幸いリビングは屋根も壁も窓も壊れていない。
少しだけ魔法をかければ室内もそこそこ暖かくなる。
「今日のお弁当は何かな」
そう言って開けようとした瞬間だ。
俺は冷たい何かを感じた。
例えるなら突きつけられる寸前のナイフだ。
『
とっさに防護魔法を展開する。
ほとんど脊髄反射だ。
次の瞬間俺達の回りを炎が取り囲む。
俺とファナとテーブル、それ以外の周り全てが炎に包まれた。
「サクヤ様!」
「大丈夫だ、動くな!」
防護魔法は効いている。
炎の熱も僅かに感じる程度だ。
「ファナ、ゆっくり立って。いつでも逃げられる体勢にしておいてくれ」
既に俺には敵が見えている。
家の外、玄関先の広場に立っている。
1人だ。
燃え落ちた柱が崩れるが、防護魔法で弾かれ俺達より外側に倒れる。
落ちてきた屋根も同様だ。
俺達の周り以外が焼け崩れ外がはっきり見える。
俺はゆっくり立ち上がり、炎の先に見えている敵を睨み付けた。
「何者だ」
敵は黒く長い一枚布の外套を着た背の高い男だ。
黒い帽子を深くかぶり表情は見えない。
「獣人の生き残りに徒人、いや使徒か」
声は低く抑揚が無い。
「もういちど聞く。何者だ」
あえて俺は尋ねる。
「我が法が効かないとは、世界群の別な場所より使わされた使徒のようだ」
会話が成り立たない。
だが世界群という単語を俺は聞き漏らさなかった。
こいつ、この世界が演算世界である事を知っているのか?
「
「我は偽りの神の使徒では無い」
始めて会話が成り立った。
でも味方ではないらしい。
ならばと質問を投げつける。
「偽りの神とは何だ」
「遙かな世界から享楽の為に世界群に干渉する存在」
運営のことだな、間違いなく。
いずれにせよこいつは色々情報を持っていそうだ。
ならば捕らえておくのがベターだろう。
回収や尋問は
『
俺が持っている最強の睡眠魔法だ。
その筈だが奴は倒れない。
もう一度魔法をかけるかどうか考えやめておいた。
「賢明だな。お互い勝負はつかないだろう」
奴は単なる事実であるかのように淡々とそう語る。
「
「別の神の使徒、そう言えばいいだろうか」
相変わらず抑揚の無い声だ。
「世界に干渉する神とその干渉を妨げようとする神。この世界群を導くのにふさわしいのはどちらだろうか。パリアカカ神は人を生贄にする代わりにリャマで満足すると告げ、ワリャリョ・カルウィンチョ神から信徒を奪った。この『プルンルナ』世界、そして『アウカルナ』世界群ではどうなるだろうか」
間違いない。
こいつはこの世界の外から来た存在だ。
もしくは外の世界から見たこの世界を知識として知っている存在。
南米の神話なんてこの世界で知られている訳がない。
「この村の獣人最後の一人を儀式の生贄に、世界の変革を近づけようと思ったのだが。残念ながら諦めるしかなさそうだ。この場では勝負もつかないだろう」
つまりファナをが目的だったという訳か。
ならば倒しておくべきだが多分無理。
恐らく奴の能力は俺と同等だ。
数字上全部盛りチート。
だから勝負がつかない。
奴が言っているのはそういう事だ。
「ではさらばだ。また遇う時には趣旨替えしている事を望む」
奴は悠々と去って行く。
ファナが俺の方を見た。
「無理だな」
俺は首を横に振る。
負けない自信はあるが勝てる自信は無い。
しかも知識上は奴の方が有利だ。
そしてこっちにはファナがいる。
疲れを感じた。
でもまだ緊張を解くことが出来ない。
奴が再び現れないと確信できるまでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます