第10話 魔法使いには厳しい約束

 どうやら現実の睡眠時間はかなりの部分VR没頭時間で代用出来るようだ。

 勿論全部をVRにしてしまうと頭痛に悩まされたりもするけれど。

 だいたい現実で1日当たり2時間位寝て、あとは向こうで2日過ごせば何とかなる感じかな。

 その代わり食事のカロリーと栄養価には気をつけなければいけないけれど。

 運動不足だけはまあ仕方ない。

 1日に一度コンビニに歩いて往復するから引きこもりより少しはましだ。

 そんな訳で俺は飯を食うとすぐに『プルンルナ』世界へと舞い戻る。

 

 確か床で倒れていた筈だがちゃんとベッドに寝ていた。

 布団もしっかりかけてある。

 流石に宴会は終了したようで静かだ。

 そこまで考えた時ふとベッドに違和感を感じた。

 これは俺の部屋で俺のベッドで間違いない。

 でも人の気配がする。

 すぐ横に。


 ちょい待て。

 俺は知らないうちにお持ち帰りしてしまったのだろうか。

 まさかこの俺の身体は自動で魔法使いを卒業してしまったのだろうか。

 俺が現実世界へ帰っている間に。

 自動行動中の記憶もこっちの世界に戻れば入る筈。

 でも必死になって思い出してみるがそんな記憶は何処にもない。

 部屋入口で倒れたのが最後の記憶だ。

 だいたい相手は誰なんだ。

 見るも無残な感じの相手なら俺は逃げるぞ。

 そう思ってゆっくり顔を横に向けてみる。

 セーフだ。

 ファナの寝顔だった。


 そう思ってふと気づく。

 セーフじゃない!

 確かにファナはまだ小さいし俺の子供扱い。

 でも女の子なのだ。

 悪いが養子扱いであろうと女の子は女の子。

 何かいい匂いがするような気がするし。

 やばいやばい。

 だいたい何故こんな事になっているのだ。

 小さい女の子といえど魔法使いには厳しいだろこれ。

 いや別にファナに性欲を感じる訳じゃないけれどさ。

 本当だ。俺はロリコンじゃない。

 しかもこれはVRだ。そうVR。


 ファナを起こさないよう静かに起きようとして。

 そして失敗。

 静かに起きようとしたのだが、ベッドの動きで気付かれたようだ。

 ファナが目を開ける。

 まずい、どうする俺。


「あ、サクヤ様。おはようございます」

 やっぱりファナは可愛いなあ、じゃなかったいいのかこの状況。

「ごめん、何か知らないけれどいつの間にか一緒に……」

「大変だったんですよ。あの後も」

 今が大変なんだ、そう思いかけて気付く。

 ファナ、この状況を全然気にしていないようだぞ。

 まあ何が何だかわからないがとりあえずファナの話を聞くことにする。

 この落ち着かない状態で。


「サクヤ様がトイレに行ってそして倒れたじゃないですか、この部屋の入口で。そのことは憶えていますか」

 うんうん、俺は頷く。

「それでとりあえずこのベッドに寝せると、世話するって女性が何人も名乗り出て。なんか嫌な感じだったから私が看ると言ってこの部屋に立てこもったんです。家族だから当然だって言って。それでもファナちゃんは自分の部屋で寝てていい私が世話するってのがしつこくて。何か嫌ですねああいうの」

 そうか、俺はいつの間にか卒業の機会を逸していたのか。

 いやでも今回の場合それは間違いなく正解だ。

 下手なのに捕まって結●は墓場なんてのを実感した日にはたまったもんじゃない。

 そんなのは前世だけで沢山だ。


「まあそれで宴会もそのうち終わって、エリクさんやウゴさん達に片づけてもらって、それからついでにクマ魔獣の時に約束したお願いを使う事にしたんです」

 そうか、後でエリク達に少しお礼をしておこう。

 さてお願いとは何だ一体。

 今のところ何も思い当たる事は無いけれど。

「やっぱりこうやって一緒に寝ると安心できるんです、私。前に獣人族の村に住んでいた時も家族は一緒の部屋で寝ていましたし。このベッドなら広いから私が一緒でも大丈夫ですよね。そんな訳でお願いは『寝るときは一緒に寝ましょう』という事です。いいですよね」

 

 ちょっと待った!

 俺はロリコンじゃない。

 でも10歳とは言え女の子と一緒に寝るのはまずいだろう。

 確かに家族だけれど血はつながっていないし。

 俺はロリコンじゃないしこの世界はVR!

 ベッドも夫婦用のダブルサイズだから大きさは余裕。

 だから問題は無いけれど、でも魔法使いとしてはだなあ……


「お願いを一つと言った時に、いいって言いましたよね」

 確かに言った、言ったけれどさ。

「家族だから問題ないですしむしろ当然ですよね」

 家族だから問題ない……でも同じベッドはどうだろうか。

「お願いです。この方が私も安心して寝る事が出来ますから。いいですよね」

 ついに俺、頷いてしまう。

 仕方ない。

 俺はファナには弱いのだ。


「それじゃ朝の用意をしましょう。今日は昨日の宴会があったからエリクさん達も少しゆっくり来るそうです」

 ファナはキッチンへ向かう。

 上機嫌なのか鼻歌までフンフン聞こえている状態。


 俺は何故こうなったのだろう。

 今までの経過を思い出してみる。

 強いて言えば飲み過ぎて倒れたのが敗因だろうか。

 でもこの結果になる事を避けられそうな選択肢は結局何処にも発見できなかった。

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