第11話 魔法を覚えよう

 ファナが料理しているのをテーブルから眺めている。

 何というかファナは小さいのに色々出来るし色々知っている。

 料理だって俺よりも上手い。

 この辺の素材を使ったものなら俺以上にレシピも知っているし。

 しいて言えば若干肉類が多めになるけれどそれは俺的にも嬉しい。

 この季節なら狩りである程度獲物が捕れるし、それ以外ならバリケンがガンガン増えるしさ。


 今日はネズミの塩漬け肉を焼いたものとジャガイモサラダ、雑穀スープかな。

 そんな事を思いながらファナを見ていて気付いた。

 ステータス画面、数値がある条件を満たしている。

「ファナ、多分もう治療魔法の初歩段階レベル1は使えるようになっているぞ」

「本当ですか」

 ファナが振り返る。

「ああ。朝食をとったら確かめてみよう」

 治療手伝いの他、クマの解体だの倒れた俺の世話だの色々やったからな。

 知識と経験値が治療魔法習得可能な状況まで上がったようだ。


 そんな訳で朝食もそこそこに治療魔法の伝授をする。

「治療魔法の初歩段階レベル1は基本的には同じものを作っていって繋げるイメージだ。まず治したい場所をよく見る。魔法を使おう、治療しようと思ってよく見ると頭の中に構造が思い浮かぶと思う。その構造を見ながら足りない部分を同じような作りの部分から増やして補ってやって、そして繋げるんだ」

 とりあえず一番手っ取り早い方法でやってもらおう。

 俺は自分の左手を痛覚遮断したうえでナイフでちょっと切る。

「えっ」

「大丈夫だ。俺は痛覚遮断が出来るし血流も調節できるから事故にならない」

「でも……」

「気にするな。気にするならこの傷を治すんだ。さあよく見て、そして治して」

 ファナが真剣な目で俺の左手を見る。

 切った傷口がすすーっとつながっていった。

 痕跡は薄く線が残っている程度だ。


「えっ。出来たんですか」

 微妙に半信半疑の声。

 俺は大きく頷いてやる。

「そう、これで治療魔法初歩段階レベル1は大丈夫だ。初歩段階レベル1といっても大抵の外傷はこれで治せる。病気の治療はもう少し難しいけれど、この分なら出来るようになるのもそんなに遠くないだろ」

「獣人の私でも治療魔法が使える、使えるんですね」

「当然だ。同じ人間だしさ。ちょっと魔力的に有利不利がある程度だ」

 そう言ってふと気づく。

 治療魔法のおかげで魔力も少しついたようだ。

 なら他の魔法も覚えてもらう事にしよう。

 

「魔力が使えるようになったから、これからは他の魔法も徐々に憶えてもらうぞ」

「治療以外も魔法を使えるようになるんですか」

「当然だろ。俺の家族ならそれくらいは使えないとな」

 最初の魔法が使えるようになって魔力さえつけば他の魔法を憶えるのもそう難しくは無い。

 魔力さえあればあとはイメージだ。

 俺自身はチートで身に着けたが教え方も一応頭に入っている。

「そのうち俺よりも色々出来るようになるかもな。俺は魔法は使えるが格闘とか体術関係はあまり得意じゃないし。ファナなら両方使えるようになるだろうしさ」

「私頑張ります」

「ゆっくりで大丈夫だからな」

「でも早く色々出来るようになりたいです」

「焦らなくてもそのうち色々覚えられるさ、ファナなら」


 ふと思う。

 こんな生活が続けばいいなと。

 ファナは可愛いしここでの生活は楽しい。

 確かに体力作業も多いけれど人も親切だし色々やっていて楽しいし。

 これがVRだというのが悲しい位だ。

 でもそう、これはVRの世界。

 更に言うと俺がここにいるのは仕事だ。

 この世界をコントロール不能にする大魔王出現の兆候をいち早く察知する。

 俺はその為にここにいる。


 この世界の為には大魔王を早く滅ぼした方がいいのだろうか。

 出来れば今の状態がもう少し長く続いてくれると嬉しいのだけれども。

 そういえば嬉しいという感覚もダメダメな時は感じられなかったな。

 この世界のおかげで色々な感情が戻ってきたような気もする。

 この世界は仮想空間で感じているのはVR技術のおかげ。

 それでもここの世界は関係なく今日も生きていると感じる。

 世界が生きているという表現は変だけれど。

 俺がこの世界に来てこの世界の時間でまもなく10か月。

 大魔王の兆しは今の処見えない。

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