第9話 俺、脱出する
クマ魔獣の死体運びも結局ファナに御願いしてしまった。
身体の大きさ的には俺が運ぶ方が適しているのはわかっている。
でも野生動物の死骸なんて直接担ぐと蕁麻疹が出そうだ。
更にダニとか何かが這ってきそうな気がする。
実際は何もないのにパニックを起こしてはまずい。
そんな訳でファナにやってもらった訳だ。
つまり戦略的撤退なのだ。
ちょっと違うか。
そしてファナの担ぎ方がまた上手い。
そもそもクマの大きさはファナよりずっと大きい。
身長が俺くらい、体重俺の3倍くらい。
そんなクマの死体の前脚と後脚を持ってきた槍に縛り付ける。
そしてそのまま槍を天秤棒のように使って肩にかついでしまった。
獣人って本当チートだよな。
「じゃ行きます」
「わかった。俺は後からついていく」
足が遅くなるだろうからファナの速度にあわせる。
そのつもりだったのだが全然そんな事はない。
行きとほぼ同じ速度で村へと戻ってきてしまった。
家の前に石でつくった三和土の上にクマをおろす。
「解体をはじめておきます。サクヤ様は村長やホセさん達を呼んでください」
何かファナに使われている気もするが適材適所という奴だ。
だいたい俺は獣の解体なんて出来ない。
知識としては頭に入っているのだけれど、あのグロさがどうにも……
俺が出来るのはせいぜいバリケンまで。
ネズミ以上はファナにお任せというのが実態だ。
言っておくがここのネズミは日本の猫より大きい。
だから解体するとそこそこ肉も毛皮も取れるけれど絵面的にエグイ。
そんなくだらない事を考えながら村長の家へ。
扉を3回ほどノックする。
「失礼します。サクヤです」
ちょっと遅れて返答が返ってくる。
「おおサクヤ殿か。今日は魔獣の件もある故あまり外は出ない方が……」
「その件ですが、ファナが例のメガネクマの魔獣を退治しました」
無言。
無言。
無言。
もう一度説明しようかと思った時だった。
「何じゃと。今メガネクマの魔獣が退治されたと聞いたような気がしたが」
「その通りです。ファナが退治しました」
ドン! と扉が急に開く。
あと一歩で扉に顔がぶつかる処だった。
危ない危ない。
頼む村長少し落ち着け。
そこからはもうジェットコースター状態だった。
気がついたら俺の家のリビングでクマ肉鍋3つ囲んで宴会状態。
うちの使用人はもとより村長、狩りの御一行、更には関係ない村人までいたりする状態で……
ナンデコウナッタ。
俺は本来夜は静かに眠りたい派。
でも何故かホセとダビという怪我人コンビに絡まれつつ酒を飲まされている状態。
「いやーファナちゃん可愛いよな。俺もあと十歳若ければなあ……」
俺より年長のくせしてファナに色目使うな。
「俺達が苦戦したあのクマ魔獣がやられたと聞いてちょっと悔しかったけれど、ファナちゃんなら仕方ないよな、可愛いしさあ」
可愛いのは分かっているからお前が言うな。
「サクヤ殿の治療魔法は完璧だったし、明日こそはあのクマ魔獣を倒すぞと思っていたのになあ。ファナちゃんに乾杯!」
「くあんぱ~い、さあサクヤ殿ももう一杯!」
ここの酒はトウモロコシを発酵させた後蒸留させ、リュウゼツランとか果物を加えて飲みやすくしたもの。
感じとしては梅酒を割らずに飲んでいるようなものだ。
すっきりとはしているがアルコール度数はめちゃ高い。
回復魔法で強力にアルコールを分解しているがそれでも頭がくらくらする。
多分もう動いたらアウト状態だ。
サラリーマン時代の飲み会経験からそれはわかっている。
でも世の中には膀胱の容量というものもある訳で……
「すまん、ちょっとトイレ」
「ちょいまて、逃がさねえぞう~」
「だからファナちゃんを俺に下さい!」
誰だ今のは!
ファナにはまだ早い!
ヤバい連中を何とか捌いてトイレへ。
出すものを出したらもうくらくら状態。
回復魔法も飲酒量には勝てなかった模様だ。
それでも何とか汚さずトイレの外に出る。
リビングと反対側の俺の部屋の扉を開けたところでぐらりと……
やばいと思ってログアウトした。
流石に現実世界までは酔いは廻ってこない筈。
だが何故か頭がくらくらする。
とりあえず寝よう。
でもその前に義務的にも飯だ。
コンビニに今の飯と次の飯を買いに行かなければ。
あとそろそろお金もおろしておこう。
その前にシャワー浴びてひげをそらないと不審者だよな。
ああ現実はなんと世知辛いことよ。
とりあえず俺は色々解決するために浴室へと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます