第1章 ゲーム的イベント発生。割と定番の惨劇。でも俺的には色々限界寸前

第1話 イベント発生

 実世界では2ヶ月、ここVR世界では半年の時間が経過。

 幸い俺の農場付近では気象災害等も無く農業も順調。

 健康的な農民生活で俺のうつ病も大分楽になってきた感じだ。

 少なくとも夜中にいきなり息苦しくてたまらなく感じる事は無くなった。

 やっぱり朝起きて太陽を浴び肉体労働をするのは精神的にいいらしい。

 ここはVR世界だけれどその辺の効果は実世界と変わらないようだ。


 農場は大麦とソラマメをそろそろ始めようかというところ。

 あとニワトリ代わりに飼っているバリケンが順調すぎる位に増えている。

 多くなり過ぎたのでオスを間引いて雇用人たちに1匹ずつ肉用としてやったら思い切り喜ばれた。

 これの肉はなかなか美味いのだ。

 それが発生したのはそんな順調と思えた時期。

 突然の事だった。


「今日はウゴが来ないな。何かあったのか?」

 朝、雇っている1人が来ていないので近所に住んでいるエリクに聞いてみる。

「今、村では流行風邪が出ていますからね。その影響かもしれません」

 そうなのか。

 俺はたまにしか村に行かないから知らなかった。

「ちょっと心配だな。見に行ってみようか」

「でも流行風邪がうつると大変ですぜ。大丈夫っすか」

「これでも一応治療魔法程度は使えるからな。大丈夫だ」

 実は一応程度では無い。

 俺はこのゲームに長居して観測が出来るよう、予め能力チートを貰っている。

 故に魔力量も使える魔法も賢者や大魔道師並み。

 無論そんな能力がある事は隠しているけれど。


「エリク、案内をしてくれ。ウゴの家の前まででいい。お前まで病気になると困るからな」

「わかりました。でもいいのですか、旦那」

「問題無い。治療するなら早い方が結果が良くなる」

 実世界でないとわかっているから少しは積極的にもなれる。

 そんな訳で徒歩十分ほどの村まで。

 小規模自営農や自営の金属加工工場、商店が数十軒ある程度のごく小さな集落だ。

 ウゴの家はその中でも外れに近い場所にある小さな家だった。


「ここっす」

「わかった」

 俺は家の扉をノックする。

「ウゴ、大丈夫か。俺だ、サクヤだ」

 2回ほどそうやって呼んでみる。

 本来の俺では出来ないがここはVR世界。

 そしてここでは俺は元男爵家の一員だ。

 そんな訳で普段の俺では出来ない行動ロールプレイも出来たりする。


 およそ3分程度した後、扉の向こう側から声が返ってきた。

「旦那、すみません。一家揃って流行風邪になっちまいました。もう駄目かもしんません」

 声が小さい。

「開けてくれ。これでも治療魔法程度は使える。何とかなるかもしれない」

「旦那まで病気になったら男爵に申し訳無いでっさ」

「心配するな。さっき言った通りだ。開けてくれ」

 なかなか開けてくれない。

 面倒なので奥の手を使わせて貰う。

 魔法で内閂を動かすだけだけれども。

 扉はあっさり開いた。

 ふらっとウゴが倒れてくるのを受け止める。


「大丈夫か」

「見た通りっす」

 見ただけでステータスがわかる。

 体温39度。筋肉痛、下痢症状あり。

 症状インフルエンザ。

 もう間違いない。

「病気にかかっているのは何人だ」

「家の中全員でさ。親父、母ちゃん、兄貴、妹、俺の5人す」

「わかった。取りあえずウゴは待っていてくれ」

 治療魔法を2回ほどかけておく。


「ありがてえ。少し楽になりました」

「必要な物を持って来させる。ちょっと待ってくれ」

 俺はそう言って家の外で待っているエリクに叫ぶ。

「俺の家から塩、砂糖を小袋1つ、キヌア1袋、ソラマメ小袋を持ってこい。持って来たら扉の前に置いて離れてから声をかけてくれ」

「わかったぜ」

 エリクが走って行くのを見てから扉を閉め家の中へ。


「ウゴ、全員を案内しろ。回復魔法で治療する」

「わかりやした」

 少し元気になったウゴの案内で各部屋へ。

 親父さんとお袋さんが俺を見て布団から出ようとする。

「動くな。回復が遅れる」

 治療魔法を一発。

 親父さんはこれで大丈夫そうだ。

 お袋さんの方はちょっと脱水症状が出ているな。

 でもこの程度なら対症療法で回復できる範囲内だ。

 続いて兄の方を確認。

 そこそこ酷いが回復魔法2発でそこそこ回復。

 水分を充分取って休めば回復するだろう。


 最後は妹だ。

「ちょっと酷いな」

 身体が小さい分脱水症状がかなり酷い。

 今回のインフルエンザは酷い下痢を伴うようだ。

 取りあえず回復魔法を3発かけて少し落ち着いたがこのままではまた脱水症状を起こしそうだ。

 エリクに色々取りに行かせて正解だった。

 あの辺の材料があればなんとかなる。


「旦那、ここへ置いておきやす」

 エリクがついたようだ。

 よし準備するぞ。

「ウゴ、ちょっと作るものがある。ついてきてくれ」

 玄関で持って来てもらった荷物を取ってキッチンへ。

 中身が空のやや大きめの壺を見繕って炎魔法で殺菌する。

 水を汲みに行くのが面倒なので魔法で水を壺八分目に入れる。

 魔法で水を出したのは面倒な他にも理由がある。

 魔法で出した水ならば菌類は含まれていない。

 蓋をして更に殺菌魔法をかければ数日間は痛んだりしない筈だ。

 壺の中に砂糖と塩を目分量で入れてかき混ぜる。

 ステータスを見るとほぼ予定通りの経口補水液になっているようだ。


「ウゴ、面倒でもかならずこの水を全員に飲ませてくれ。トイレに行ったら手を洗って必ず飲む。味が受け付けなくても毎回コップ1杯は必ず飲ませろ。出来れば1時間に1回ずつだ。あとは暖かくして寝ていろ。そうすれば数日で必ず楽になる」

 更にソラマメとキヌアの袋を置く。

「1日2食はこれで暖かい粥を作って必ず食べろ。あとはとにかくあの水を飲むことだ。今の状態ならそれで大丈夫な。万が一その壺の水が無くなったら壺1杯の水にこれだけの塩と砂糖を入れて混ぜてくれ」

 塩と砂糖を計って1回分出し、残りは袋に入れたまま置いておく。


「今は回復魔法が効いているから動けるが無理はするな。さっき言ったとおりあの水を飲んで粥を食べ、あとは出来るだけ寝ているんだ。そうすれば必ず数日で治る。絶対無理をするんじゃないぞ」

「済まないでさ、旦那」

「いいから寝ていろ。あと完全に治ったと思っても3日は出てくるな。寝ていろ。給料は寝ていた日分も出すから心配するな。早く外に出て流行風邪を他にうつす方が問題だ。いいな」

「本当に……」

「いいから寝ていろ。鍵はしめておく」

 それだけ強く言って、それから俺は家を出る。

 出てすぐ全身に殺菌殺ウィルス魔法をかける。

 これは念の為だ。

 他の人にうつるとまずいからな。

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