プレ・プロローグ第2話 エントリーの結果

 一般常識の問題はなかなか強烈だった。

 内容は数学及び数的推理、自然科学、社会常識、その他一般的な知識の4種類。

 それを20分ずつみっちり解かされたのだ。

 例えば数学は5問ずつ問題が出され、解くか諦めたら次に進む。

 難易度そのものは高校卒程度というか大学の共通試験程度まで。

 以前に出た問題の解き方を思い出したらそこまで戻って解いてもいい。

 ただ問題数が無限に出てくる。

 見直しなんて出来る状態じゃ無い。

 とにかく解く、解く、解く。

 そんな感じだ。


 他の分野も同様。

 とにかく無限に問題が出てきてひたすら解きまくる形式。

 終わりが見えないというのはなかなか辛い。

 しかも病んでいるせいか治療薬のせいか昔に比べて俺の頭の回転速度は遅い。

 本当に大丈夫だろうか。

 知識量には自信があったのだが今回は自信が無い。

 何せどれくらい出来たか、配点はどうなのか何もわからない状態なのだ。

『お疲れ様でした。これでエントリーは修了致します。結果は1週間以内にメールさせていただきます。御参加ありがとうございました』

 そのメッセージが出た途端疲れでその場で倒れてしまった。

 精神的に疲れ過ぎてそのまま飯も食べずに寝てしまった位だ。

 

 そんな感じだから当然結果もあまり期待できない。

 でも気にはなるわけで毎日メールボックスを欠かさず確認する。

 それこそ一日に何度もだ。

 期待できなければ他の就職情報を探すべきだろう。

 そうわかっていてもなかなか出来ない。

 もし受かっていたらと思うと何も出来ないのだ。

 結果見飽きた面白くも無いサイトだのを見て時間つぶしをする日々。


 そして3日後。

 朝10時ちょうどにメールが入った音がした。

 急いでメールボックスを開く。

 新着メールが入っていた。

『採用通知および今後の予定のご案内』

 そんなタイトルが目に入る。

 合格した訳か。

 でもそう思うと途端に不安になってくる。

 実は隠れブラックではないかとか。

 採用詐欺で実は何かを売りつけるような悪質商法なのではないかとか。

 いわゆる『あなたは選ばれました』詐欺ではないかとか。


 何せかなり回復したけれど所詮はうつ病状態。

 まだ毎日のサイン●ルタと時々のデ●スが欠かせない。

 時折呼吸がしにくいような窒息しそうな気分になっていてもたってもいられない気分になる。

 気のせいだとわかっているのだがどうしようもなくてデパ●を飲む。

 効いてくるまでの間少しでも他の事を考えてパニックにならないようにするため、外を無理やり散歩したり部屋内で無理やりラジオ体操して気分をごまかして。

 数分後薬が効いてきてやっと落ち着けるなんて事もまだまだある状態だ。

 落ち着きないなんて言わないでくれ。

 パニック状態で大声を出したくなったり物を壊したくなったりやたら暴れたくなったり、いっそ死んでしまった方が楽だと思ったり……

 それらを実行するよりよっぽどましだろう。


 ネガティブ思考になりがちなのは仕方ない。

 自分でもネガティブだとか考えすぎだとわかっていてもどうしようもない。

 それがこの病気なのだ。

 落ち着け俺。まずはメールの内容を読んでからだ。

 そう自分に言い聞かせてメールを開く。


『このたびは弊社の採用試験にエントリーしていただき大変ありがとうございます。選考の結果、採用の方向で話を進めさせて頂く方針になりました。ついては今後の……』

 つまり労働条件や勤務内容、勤務態勢について面談を実施したいから都合の良い日を連絡してくれという事だ。

 無職引きこもりだから毎日毎時間都合がいいといえば都合がいい。

 しかも面談はネット上でヴァーチャルで行うようだ。

 現在使用している端末の性能や付属品、VRゴーグルやヘッドセットの有無、他のVRデバイス所有の有無、所有している場合はその機種名を記載しろとある。

 なお端末の性能が足りない場合やVR機器を所有していない場合、所有していても規格があわない場合は貸与するともある。

 なおこれらの貸与は採用の有無には関係ないとの事。


 いったいどういう面談を行うのだろう。

 色々よくわからないが取りあえず正直に記載する。

 パソコンの性能も足りていないしVR機器なんて超旧型のゴーグルくらいしか持っていない。

 だからほぼ全部を貸与して貰う形になりそうだ。

 なおネット回線は前回のエントリーの際に確認して問題無いとの事。

 まあ激安とは言え一応光回線だしな。

 平日夕方とかは混むせいか少し速度が落ち気味だけれども。


 面談予定日時は機器を送る関係上1週間以上先にしてくれとあった。

 なのでちょうど1週間先の木曜日午前10時を予約しておく。

 空いている場所を予約する形なのでこの日で確定だろう。

 それまでに散髪に行き、スーツ等もクリーニングに出しておかないとな。

 幸い店に行けない程の引きこもりではない。

 2日に1回はコンビニには行っている位だ。

 会話も多分大丈夫だと思う。

 2週間に1度は病院で医師と面談しているから。

 あまり意味のある事は言えないし薬の希望を話す位だけれど。

 事前に●パスを飲んでおけば半日くらいはパニックが起きかける事も無い。

 でも取りあえず受け答えの練習くらいはしておこう。

 そう思いながら記載事項にミスや書き忘れが無いか3回確認して送信する。


 そして1週間はあっという間に過ぎていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る