プレ・プロローグ 無職引きこもりからの脱出 あるいは面倒くさい設定の御説明
プレ・プロローグ第1話 天井と布団の日々
31歳を少し過ぎたある日、俺は会社を辞めた。
何かもう色々やばくて疲れたためである。
電車に乗っているだけでも叫びそうになったり、家から外に出るだけで恐怖感で数十秒動けなくなったり。
つまりはもう限界だった訳だ。
自分でもやばいと思って心療内科の予約を入れた。
一番早く予約を取れた病院でも診察は3週間後。
その日まで何とか働きぬいて診断した結果がうつ病とパニック障害。
もうこれ以上あの職場にいては精神が持たない。
先月職場で体調崩してそのまま死んだ上司もいたし。
そんな訳で俺は退職を決意。
病気に拍車をかけるような出来事色々の後、何とか無事ではないが退職に成功。
その後はほぼ安アパートで倒れていたわけである。
貯金と失業保険とで半年くらいはここに住めるし飯も食える。
でもその後の見通しは全く無い。
いざとなったら生活保護でも申請しようか。
通るかどうかは不明だけれども。
そんな事を考えつつただ布団と天井を見る日々。
病院が2週間に1回で職安が月に1回。
あとは食事を買いに行く以外、ほぼ布団の中だ。
食欲は無いが食べないと死ぬ。
だから1日1食はコンビニ飯でもいいから食べようと自分ルールにした。
排泄と同じように単なる作業。
まあそんな感じの生活だ。
でもゆっくり休みまくると、少しは余分なことを考える体力も出てくる。
3ヶ月位そんな無為な生活が続いた後、俺はネットで求人欄を見ることにした。
そろそろ職を探さないとやばいかなという気もしてきたからである。
でもなかなか良さそうなものは無い。
贅沢は言わない。
今の俺でも何とか食っていける程度でいいのだ。
でもそんなホワイトな職場はなかなか無い。
謳い文句からしてブラック確実な職場はいくらでも見つかるのだけれど。
『アットホームな職場です』とか『いつも新鮮若い子がいっぱい』とか。
これはもうダメかもわからんね、チーン。
そんな事を思いながら求人欄を見る日が続く。
少しずつ他のWebページを見る気力とかは出てくるものの、良さそうな求人条件にはなかなか出会えない。
そんな訳で日々は布団と天井メインで過ぎていく。
そして残金が80万円を切り、部屋で筋トレくらいは出来るようになった頃。
俺はやっと何とかなりそうな求人情報を見つけた。
『[社]在宅勤務可能、管理運用補助。未経験者可』
この[社]とは社員募集という意味だ。
どれどれと思って見てみる。
『業務管理運用補助。月給21万8000円(各種手当別)。年齢不問、社保完備。Web接続環境あれば在宅勤務可。勤務時間フレックス制……』
何せパニック障害で電車に普通に乗れる自信が無い。
なので在宅勤務可なのはありがたいところだ。
Web応募可能なのも有り難い。
資格等は特に無く、ただ『幅広い知識を持つ方を希望します』とあった。
何の仕事か良くわからないところが欠点。
だが見る限り『やりがい』とか『すぐに管理職』とか『アットホームな職場です』というようなブラック企業でよく出る記載事項は無い。
念の為に会社名を調べてみた結果、それなりに知名度のある会社であることもわかった。
しかも3年離職率も3%以下と低い。
これはダメ元で申し込んでおこう。
そう思って早速記載された申し込みページへと行ってみた。
申し込みページの方には注意書きがある。
『申し込みシート作成の最終段階で簡単な一般常識のテストを行います。ですので2時間程度の余裕を持ってエントリーされますようお願い致します』
幸か不幸か無職の俺には時間はたっぷりある。
それに履歴等で聞かれそうな学歴とかはパソコン内にテキストでメモしてある。
従ってすぐに開始してまずい状況は特にない。
強いて言えば今現在髪がボサボサで髭もそっていない事くらいか。
しかし申し込み要項にはデジカメ等が必要とは書いていない。
でも一応は髪と髭、それに服装を整えておいた方がいいかな。
撮影があるかもしれないと思ってどきどきするよりはその方がいいだろう。
急いで歯を磨き顔を洗い髪をブラシして、比較的マシなポロシャツを着る。
この時間の間に競争相手にこの件が見つかって募集終了になっていないか。
不安だったが応募ボタンはまだ有効のようだった。
それではエントリー開始。
俺はエントリーボタンをクリックする。
最初は氏名や生年月日、住所、本籍に学歴職歴の記載だ。
この辺はパソコン内にテキストデータでまとめてあるのでささっと記載。
履歴書的な内容を一通り埋めて確認。
うん、間違いない。
確認ボタンをクリックする。
『それではこれから一般常識のテストに入ります。計算問題等もありますのであらかじめ計算用紙等をお手元にご準備下さい。
また解答を調べる為に辞書やWeb等を使用してもかまいません。ただし一般常識問題の問題数は充分に多いと思われますので、なるべく1問に時間をかけず、わからなければ次の問題に進むことをお勧め致します。飛ばした問題を後に回答することも可能です』
わからなければ飛ばせか。
親切なのか脅しなのか。
でも取りあえず言われた通り計算用紙と鉛筆を準備する。
机の上を回答しやすいように整理して、深呼吸して。
俺は開始と書かれたボタンをクリックした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます