在宅勤務で打倒大魔王!~または30過ぎ無職うつ病魔法使いの異世界リハビリ生活~

於田縫紀

プロローグ 演算世界・俺にとっては異世界・人によってはVRMMO世界にて

プロローグ 第1話 俺・新人農民

 気がついたのはベッドの上だ。

 見知らぬ天井。

 何処だと考えてすぐ思い出す。

 ここはティワナク王国ケチュア地方、ニルカカ開拓村にある俺の家。

 『アウカルナ』世界群の一つ『プルンルナ』世界だ。

 寝たまま身体が動くかどうか確かめる。

 右手、左手、右足、左足。

 まあVRゲームの世界だから動くのは当たり前だよな。

 俺は起き上がる。


 とりあえずこの世界での俺の立場というか状況を確認。

 名前はサクヤ。サクヤ・レン・アレクフォード。

 貧乏男爵家の3男で、高等教育学校を卒業した後軍幹部学校に入学。

 卒業後は軍に5年間いたがどうしても軍に体質が馴染めずに除隊。

 その時まで貯めていた貯金となけなしの退職金、それに領主である父からの援助で領地の外れに農地と家、そのほか必要なものを入手。

 農民としての第一歩を今日から歩き始めるところだ。


 男爵家の一員なのに開拓村の農民とは世知辛過ぎるって?

 貴族とは言え貧乏男爵家、それも3男だとそんな程度だ。

 しかも俺は軍を途中でドロップアウトした人間だしな。

 無一文で放り出されないだけましというものだ。

 まあゲームの設定と言ってしまえばそれまでだけれども。 


 実は俺には隠された使命がある。

 それは大魔王復活の予兆をいち早く察知し創造神うんえいに知らせる事。

 でもまずは農民としての立場を固めてからだ。

 本体の俺はかなり精神的体調が悪いがここはVR世界。

 なので何かあっても『ここはVR世界』と称えておけば何とかなるだろう。


 さて、俺の農地は今はキヌアとジャガイモ、マシュアが植わっている。

 他にソラマメや大麦も入れた輪作を行う予定だ。

 この地域で一番広さとカロリーを考えて効率がいいのはジャガイモ。

 でもこのジャガイモをはじめいくつかの植物は連作障害が出やすい。

 それらの結果こういった輪作がこの地の農業の常識になっている訳だ。

 なおジャガイモとマシュアを一緒に栽培するのはこうするとジャガイモの害になる線虫がつきにくくなるから。

 この辺は非公式攻略Wikiを読んで学習済みだ。

 あとニワトリ代わりにバリケンを飼育している。

 こいつは野菜くずを少々与えておけば勝手に育つし大型で肉も美味い優れものだ。


 それにしてもこの辺の農作物と家畜とか、微妙に見慣れないものが多い。

 よくあるヨーロッパ系の異世界と少し違うよな。

 作物や環境から考えるに南米あたりがモデルなのではないだろうか。

 自然発生させた世界だからモデルというのも何だけれども。

 でも国の制度は微妙に中世ヨーロッパ風。

 厳密には中世ヨーロッパというよりRPG的とかナーロッパ的という感じだが。

 その辺はゲームにする上でなじみやすい世界に設定したのかもしれない。

 あまりにとっつきにくい世界だとプレイヤーも増えないだろうし。


 さて、顔を洗って飯でも食べるとするか。

 VRの癖にいちいちリアルなので飯も色々調理しないと食べられない。

 なおかつ食材も限られていたりする。

 今の俺だとバリケンの肉、ジャガイモ、マシュア、キヌア、カボチャ、ソラ豆。

 微妙というかなじみのない食材も多い。

 バリケンというのはアヒルの親戚みたいなもので要は鶏代わり。

 マシュアというのは芋の一種でキヌアというのはアワとかヒエみたいなものだ。

 なおカボチャやソラ豆は一度熱を通したものを冷凍してある。

 シーズン終わりに実ったものは魔法で瞬間冷凍して地下倉庫で貯蔵するのだ。

 これならシーズン外でも食べられるからな。

 この辺は食料として事前に買い出しをして蓄積済。


 そんな訳で俺は豆とジャガイモ、肉を適当にスープにする。

 これがこの辺の日常的な食事らしい。

 味などたいしたことは無いが俺はあまり味にはこだわらない。

 何せ一時期は何を食べても同じ味だった。

 だから何を食べてもその頃よりはましだと思う。

 食べるのも作業だと割り切ればそれまでだ。


 食べたら農業開始。

 まあ実際は俺が畑を耕したりする訳ではない。

 近くの小規模農家の次男等後継ぎ以外の若い男を5人程雇っている。

 地主というよりは小さく単なる自営農家よりは大きい存在という訳だ。

 俺自身は彼らに仕事を命令するのと農業計画を立てる事が仕事の中心。

 なお彼らに指示を与える作業くらいなら今の俺でも何とか大丈夫。

 この辺はプレイヤーがいちいち働かなくてもいいようにゲーム的に社会制度を設定したのだろう。

 何せプレイヤーはぶっとおしでアクセスできる訳じゃない。

 現実世界で飯を食べたり寝たりする時間が必要だ。

 ちなみにそうやってアクセスできない間は自動で進行するらしい。

 いつもする指示はいない間もしたことになるとかさ。


 いずれにせよ早くこの世界に慣れて、ある程度力をつけなければならない。

 幸い大魔王が出てくるのはこの世界ではまだまだ先の話。

 でもそれまでに情報を程度集められるような体制をとらなければならない。

 まずは今の状態で数年耐えて力をつける。

 この『プルンルナ』世界を舞台にしたゲーム『パリアカカ』では農民を選択するのが一番安全で難易度が低いらしい。

 非公式攻略Wikiの結論ではそうだった。

 なのでどうしてもネガティブになりがちな俺としてはこの状態こそきっと最適。

 そう信じて当分は淡々とやっていくつもりだ。

 何せ今の俺では状態では無理できない。

 主に精神的理由で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る