第606話
「あ、おはようございます」
「……あぁ、おはよう天良寺君」
「……?」
あれから数日後。いつものように職場に来てお着替え。
先輩は既にいてあいさつをした彼だけど。様子がおかしいみたい。
で、話を聞いてみると。
「え、バックレたんすか?」
「うん。たぶん」
「え、えぇ~……」
そう。後輩君はまだ来てない。遅刻かなと思って連絡しても返事がないそう。
で、この場合の彼の困惑は何故サボったかじゃなく、よくそんな度胸あるなのほうね。
「まぁとにかくいつまでも待ってらんないし、事務に報告だけして仕事行きましょうよ」
「ん~……そうだね。そうするよ」
てな感じで後輩君はどこへやら。
察しの良い君たちならわかるよね。
「ふぁ~……。寝たなぁ~……」
(えっと~? もう十時過ぎか。完全に遅刻だわ。ま、どうせもうやめるつもりだから関係ないか)
1Kのアパート。小汚ない部屋で目を覚ました後輩君。
「ん~……! あ~……。よし」
体を起こし、伸ばし、身だしなみを整えて。
後輩君はアパートを出てあるところへ向かう。
「はら、いかがなさいました?」
「先日はどうも」
うん。彼と彼女の家。時刻は十五時。あーヤダヤダ。こういうのは飽きたよ。なんならこの身で似たようなのは経験済みだし。
と、そんなこと心配する必要ないか。さ、続き続き。
「とりあえず中に入っても? お話があって」
「……? どうぞ」
(さて、どうしようか……)
後輩君の考えは二つ。
一つは今目の前にある彼女の背中を抱き締める。ないし押し倒すといった即行動。
もう一つは少しだけ話をしてから心を揺さぶってその気にさせるか。
さて、後輩君が選んだのはどっちかな。
(いや、焦るな。真っ昼間にハッキリ見える花菜さんの顔も後ろ姿も今すぐしゃぶりつきたいくらいだけど、すぐ俺の女になるんだから少しの我慢。我慢したほうがあとで気持ちいいし)
そういえばこの後輩君がなにをやらかして高校行かなくなったか言ったっけ?
まず夜遊びしてナンパして一晩共にしたり。同級生たぶらかして孕ませたり。教育実習生に手を出したりと色々。
なんなら中学の頃にも似たようなことして親にこっぴどくってね。
で、追い出されてアパートに突っ込まれて家賃のために働いてたってわけ。
後輩君も学習したようでね。派手にやれば危ないってのもわかるようになったんだ。だから今は大人しく機を待ってるってわけ。
そして彼女とお話をして、やはり寂しがってるとわかったところで。
「……俺なら、花菜さんに寂しい思いなんてさせないけどな」
「……?」
「あの……花菜さん。俺、初めて会ったときから……でも、花菜さんには先輩がいて……」
(初めて会った時からなんなんやろ?)
あーうん。君はそうね。そうだね。興味がなければにぶちんね。
「でも、やっぱり諦められません! 花菜さん。先輩なんてやめて俺にしませんか?」
なーんて言ってるけど目的は金と彼女の体ってね。ハハ。実に普通で退屈だこと。
「はぁ……そないなこと言われても……」
と、何度かやり取りをして。全然なびかない彼女にしびれを切らして。やっちゃいけないことをしちゃうんだ。
(チッ。意外とガード固いな。あぁもう良いや。めんどくさい。一発ヤりゃ考えも変わるだろ。あの陰キャよりも俺のが絶対イイんだから)
「わかりました。証明しますよ。絶対に寂しい思いさせないって。わからせてやりますよ」
「――」
嗚呼。やはり若いね。もっと根気よく口説かなきゃ。
そうね。彼の場合は初めて補正があったから数日どころか二日と必要としなかったけど。補正無しなら……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………――三千年くらい?
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