第605話
「ようこそいらっしゃいました。主人がいつもお世話になっておりますぅ。ささ、どうぞこちらへ」
「夕飯はまだと聞いております。お粗末や思いますが良ければおあがりください」
「良い飲みっぷり。ささもう一杯」
「はら。まだお酒は嗜めまへんのですねぇ。ほんなら酒蒸しで雰囲気だけでも。それか酒の入らないカクテルなんやも作れますよ」
という感じで流れるように中へ招き。流れるようにもてなすできる女。
そつが無さすぎるけど彼としてはそこの心配はしてなかったけどね。
むしろ招いたときともてなしたときが問題よ。
特におじさん先輩だけならともかく、若い衝動を抑えられない後輩がいるとね。そういう心配が出てくるわけさ。
「いや~先輩の奥さんすげぇ良い女すっね! 美人で料理も美味しくて。しかも着物ってことは良いとこ育ちだったりします?」
「良いとこ……言われてもわかりかねますけれど。一応生家は和宮内(ってことになってる)ですねぇ」
「え、じゃあうちの会社とかもやってるデカいとこのお嬢さんってことっすか!?」
「おじょ……えぇ、そういうことになりますねぇ」
「すっご! じゃあ先輩逆玉!? なんであんな仕事してんすか!? コネで役員とかにもなれるんでしょう?」
「……なれるだろうけど俺はそんな責任とかおいたくないから。仕事してるのはヒモが嫌だから」
「うちとしては家におってくれて構いませんのやけどねぇ。いないときはどうしても寂しくて……」
「それは……すみません」
「あ、謝ってほしいわけじゃ……。ごめんなさい」
「……へぇ~」
(これ、二人の仲って上手く行ってないんじゃね? それに奥さん――花菜さんつったっけ。寂しいみたいだし。チャンスあるんじゃ?)
と、ここで二人の間に気まずい空気が流れてるって勘違いしてしまった愚か者が一人。
(新品じゃないのはアレだし。陰気先輩のお古ってのが引っ掛かるけど。顔はめちゃくちゃ良いし。料理は旨いし、めっちゃ良い物件じゃん。しかも超金持ち。仕事しなくても良いって言ってるし、金持ちなら上手くやりさえすれば代わりに慰謝料とかも払ってくれんだろ。そのあとは適当に金せびって遊び放題。寂しいとか言っちゃうあたり束縛とかは激しいのかな? 女遊びはしばらくできないか。ま、しばらくはそっちは新妻さんに任せりゃ良いだろ。束縛する代わりに尽くしてはくれそうだし)
あぁ、いけない。よろしくない。
未成年よ。彼女は満たしてくれる男なら誰でも良かったわけだけど過去形なんだ。
だって彼女、この数年で和宮内の若い子達にアプローチ受けたり。買い物に出たときにナンパされたりもしてるから女として人並みの魅力はあるってことはわかってるんだ。
なんなら、他の男を選んでも彼は文句言えない立場だとか。金の力も相まって選び放題なのも頭ではわかってる。
それでも尚、そうしない。何故か?
彼が良くなってしまったから。
初めては偉大だねぇ。継続は偉大だねぇ。
彼は運で彼女の最初の依存を手に入れて、継続することでそれを完全なモノとした。
だから、誰も入る余地はないんだ。
ないんだよ。この二人には。
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