第604話
賑やかな宴。後日の幾度目かの我が子同然の老婆とのお別れ。
それから色々なことはあったけど。やっぱ特段――いや、一つあるね。
些細な事件が一つだけ。
まずはそこに至るまでの経緯から見ていこうか。
彼が就職して三年。人の出入りが少ない職場だけど彼にも後輩ができてね。その時なんだけど。
「あ、天良寺君。久しぶりだね~帰りの時間被るの。今日もダメかい?」
「あ~まぁ。嫁が待ってるんで」
「いいな~。僕はここに転職したときに別れちゃってね……。向こうは再婚したみたいだけどこっちは中々――」
「え、なんの話してんですか先輩方?」
仕事が終わって更衣室で鉢合わせになったのは彼を中心に先輩と後輩一人ずつ。先輩は教育係だった人ね。今は彼の後輩に当たる子を教育してるところ。
で、その後輩君は高校で問題を起こして中退。それから楽そうって理由でここに就職したって感じ。
実際体力さえあればどーとでもなるし。引っ越しの短期もやったことあるから体力的な問題はないんだ。
ただ、素行がややね。心配ではあるみたいよ職場の方々は。特に女性関係が奔放で仕事中でも目がいっちゃうくらい旺盛だし。
一応余所見程度で済んでるし、仕事は比較的真面目にこなしてはいるから今のところは問題はない。今のところはね。
「うん? いや~今日も飲みにいくの断られてただけだよ」
「へー。なんか理由でもあるんすか?」
「奥さんが待ってるから早く帰りたいんだってさ。三年前からずーっと寄り道なしの僕の片想いだよ」
「まだ若そうに見えるけど結婚してるんすね。しかも愛妻家とか。え、奥さんって美人っすか?」「…………まぁ、美人だと俺は思う」
「写真とかないんすか?」
「…………ない」
(グイグイ来るなぁ。普段俺に興味無さそうなのに。やっぱ女の話だからか?)
そうだよ。女だから君に興味を示してるのさ。
「え~。気になるなぁ~。あ、じゃあ家に行っていいすか?」
「え」
「てか先輩の家で飲みましょうよ。俺まだ飲めねぇけど」
「あ、それ良いね。奥さんを待たせることもないしさ。どう? 天良寺君」
(勝手にサクサク話進めて……。そんなんだから愛想尽かされたんじゃないか?)
とか非難しつつ失礼なことも添えつつ。
かといってきっちりかっちり断る度胸のない彼はどう答えるかな。
「……急に言われても困りますよ。うちは嫁の持ち家ですし。嫁に聞いてみないと」
「じゃあ聞いてみてくださいよ」
「ダメ元でね」
「わかりました」
で、今日家に人呼んで良いかと聞いたところ。
『ええですよ』
「「「…………」」」
秒で許可をもらったのだったー。
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