第600話

 結婚指輪は二つ。

 彼女のはダイヤモンド。永遠の愛ってことでね。ま、普通だわねそれだけだと。なので別のも贈ってるの。パールのネックレスをね。

 マザーオブパールには子宝とか母性の意が込められてるから。

 で、彼のはシトリン。彼女は大きな目を薄目にしてて少しだけ色がわかりづらいけど瞳の色が似てるのよねー。

 で、希望とか繁栄とかって意味があるの。

 二人の持ってるものを合わせるとだね。

 永遠の愛。子宝への希望ってこと。

 彼なりの回りくどい気遣いだよ。もちろん彼女も気付いてるよ。気付いてて指摘しない。

 代わりに、また執着するようになったけどね。子作りに。前よりマシだけど、一番最初の一番活きの良いのは必ずって程度。

 まぁそのあたりはもう良いかな。これから先特にこれ以上変わることはないし。

 彼らの次の問題と言えば……そうね。



「披露宴をやりましょう」

 と、リビングで提案するのはもちろん雪日ちゃん。

 何故披露宴をやろうなんて急に言い出したのか。理由は実はちゃんとしてるのよね。

「一族の仲でも大女様の顔を見たのは才君と出会った日から二年以上経ってるのに十人どころか五人にも満たないんですよ? いい加減他の方々にも面通しをしてください。あと、才君のことも気になってる親族は多数いるからね。あの大女様を射止めた馬の骨め。粉末にして出汁でもとってやろうかって」

 ね? 後半はともかく意外とちゃんとした理由でしょ。

 でも彼らは。

「「え~……」」

 新婚夫婦揃ってめんどくさそう。うんうん。仲睦まじいね。

「え~――じゃない! なんですか貴女たちその態度は!?」

 そら怒るわ。

「大女様! 貴女のご尊顔を拝んで逝きたいと思ってる親族がいったいどれ程いるかご存じでしょう!?」

「いや知っとるけど……。今までかてよう顔見んと仲良うしてきたやんか。それを今さらこんな面見たかて……」

「未練を残してお婆様、お爺様方が死ぬとこなんて見たくありませんでしょう!?」

「そな大袈裟な……」

「大袈裟なもんですか! 私だってもし大女様のご尊顔を見ずにいれば今どころの騒ぎでなく嘆願していますからね。目の前で駄々こねてやります」

「そら嫌やなぁ~。困るわ」

「普通に成人女性がそんなことするの見たかねぇ……」

「聞こえてるよ。私だって好きでしようとは思わないから」

「わかってますけど……想像しちゃって」

「今すぐ忘れなさい。覚えていても誰も幸せにならない」

「…………」

(あんたがなんも言わなければ良かっただけでしょうに)

 こんな感じで揉めに揉めつつも、結局やることに決まったとさ。

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