第601話
「これはまた……すごいっすね……」
「ほんま付き合わせてしもうて申し訳ないわぁ~……」
結局。披露宴はやることにはなったのだけど。格式張ったのじゃない。
いわば旅館の大広間での宴会ってとこかな。
上座に二人を座らせて次々と挨拶に来ては席へと戻り彼女について言葉をかわす。ついでに彼もね。主に不満を。
で、何故宴会の形を取ったのか。彼女の存在は公にはしたくないって気持ちもあるから。正式な披露宴や結婚式なら他の企業にも声をかけなくちゃいけないからね。さすがに親族間に抑えたいわけよ。
で、こんなことになっているんだけれど。
二人はずーーーっと顔ジロジロ見られてお疲れだね。
うん。既に数時間経っているけれど。少しだけ戻して様子を見ようか。
「皆様方。本日は誰一人漏れずお集まりのご様子。礼は申し上げません。何故なら求めたのは皆様方なのだから。待ち遠しいことでしょうから前口上はこの辺にいたしまして。お二方、お入りください」
雪日ちゃんの口上にて静まり返る最中、大広間の襖が開いて
「はぁあ……なんてお綺麗な面立ち……」
「俺ら、あの人に小さい頃風呂入れてもらったんだよな……」
「白装束だから直じゃないけど見てるんだよな体は……。貼り付いて、透けてて、それであの面の下はあの顔――」
「思い出すな男どもっ」
「大女様ぁ……ようやく拝謁叶いました……もうこの世に未練は……あぁ、そうだ、あの世にいったら両親に伝えないと……如何に大女様が美しいか」
「冥土へのえぇ土産ができたなぁ」
衆の目は二人に……いや、新婦のみに注がれ、若者は頬を染め、年を取るに比例して目を濡らす。
特に老い先短かろう老人はそのまま昇天しそうな勢い。
まぁ、今死ねるなら本望なんじゃない?
幸せなうちに死ぬが一番だし。
ま、そう簡単に動物は死ねないけどさ。外傷や病気以外で。
さて、視線に晒されている新婦とその夫様はというと。
「……これ、俺が来る必要ありました?」
「なにかしらの名目があったほうがってことやないかと。それに、さすがに誰かおらんとうちが気圧されてまいます。というか今まさに気圧されてます」
「でしょうね」
うん。見ればわかるよ。顔、ひきつってるもん。
親戚一同の前に出るのは何度もあるし、なんなら全員風呂に入れたりおしめ代えたりしてるわけだから緊張もなにもないんだけど。
なにぶん顔見られるのがねぇ。慣れてないから。
そこだけだねぇ。それ以外はなにも問題ないんだけど、それが一番の難題だよねー。
しかも。
(これはこの時代ではうちの顔は良い方ととらえるべきか、それとも全員色眼鏡かけとると見るべきか。はたまた盛大な世辞か。悩んでまうわぁ~……)
まだこんな調子だから。
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