第598話
「~♪」
その日の夜。新居のベッド。彼女は彼の腕の中で満足そうにしてる。
二人の格好は……言うまでもないね。
(……機嫌も取ったし。そろそろ聞いてみようかな)
「あの。聞きたいことがあるんですけど」
「……? はい。なんでございましょう?」
仮に、見当違いならそれで良し。というか普通ならそっちのが確率高いしね。
でも、私たちの視点からだとわかるけどさ。確率低い方が正解なんだよねー。
ということで聞き出そうとするんだけど、問題はその一つ目の質問よ。
彼、こういうときに限ってダメな方に転ぶのよね。
「あの……俺たちその……関係長いじゃないっすか」
「へ――あ、はい。そうですねぇ」
二年ぽっち長いとは感じないからね。ちょっと時間感覚の差が顔出したね。危ないよー。
あ、今は彼が聞き出そうとしてるから別に良いのか。
「でも、その……避妊とかせずに今までいて……子供出来ないじゃないですか」
「…………」
あ~あ。ほら。ダメなんだよそれ。彼女すごく気にしてるんだから。それ。
「も、申し訳……ございません……」
「え? あ、いや別に子供できないのを責めてるんじゃなくて……。もしも堕ろしてても俺は――」
「出来ないんです」
子供ができない体なことをさ。
正確にはできない体ってわけでもなかったのだけどね。
ちょっと考えれば誰でもわかる話。ようは閉じてるんだよ。品切なんだよ。卵がよ。
普通の人間に起きることが起きたってだけ。時間が経てばどんなに健康でも起こり得ることが起きただけ。
如何に彼女が優れた突然変異の生命体としても生殖自体を数千年単位でしてなかったんだ。そら退化しても然るべきでしょう?
そしてそんなことを最初は気付かずに彼を求めて。今は――。
「でも、心地よくて……貴方様との……日々が……」
(う……っ。ちょっとした好奇心のつもりがなんでこんなシリアスに……)
腕の中で涙を流し震える愛しの女。そうさせてしまったのがちょっとした出来心とあっちゃ罪悪感も出るというもの。
ここでやめたい気持ちもあるだろうけど。残念。今の彼は気が利かない男なんだ。
「その……気になってたのはそれだけじゃなくて……。色々っすよ。ほら、花菜さんって見た目とかずっと若くて綺麗なままだし。それから――」
勢いに任せて今まで気になってたことを全部吐き出してしまいましたとさ。
聞いてる途中の彼女は可哀想なもんだよ。
震えは増していき。余韻は悪寒に代わり。やがて終わりを悟る。
(嗚呼……そうか……ここまでか……。実に短い……耽美で……甘美な……夢だった……)
「……わかりました」
「あ」
彼の腕から抜けて、体を起こして背を向けて座る。
「私の秘密。和宮内とは何かも含めて、お話いたしましょう」
声は平坦。けれど、その目からは止めどなく涙は溢れちゃって。とっても痛々しい。
背を向けたのは最後の意地ってヤツかな。彼女としてはだけど。
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