第597話

「じゃあ入ろうか。大女様も首を長くしておられる」

「いや、今朝普通に見送られ……」

(ってことは俺がマンション出てから支度して引っ越したのか……。手際良すぎないか?)

 フィジカルが違うからね。一人で支度しても一時間もかからないさ。

(……あの人、やっぱおかしい。年齢の割に若い見た目もだし。今回に限らずやたら行動というか色々と早いし。腕力も男顔負けだし、あんな細いのに。他にも……色々……)

 二年と少し、抱き続けた疑問が今さら顔を見せたのはきっと新生活のせいだろうね。

 環境が変わって。気持ちにも影響しちゃって。

(でも、今まで気にしなかった一番の理由は――)

「おかえりなさいませ」

 三指ついて出迎える彼女。

 着物に割烹着を着てなんかもうね。もうって感じ。

(似合うなぁ……。綺麗だし。こんな人があんなに求めてくるんだから些細なことなんてどうでも良いよなぁ~……)

 いや全然些細じゃないからね? 人間離れしてるんだから気にしろよ一般人。

(大女様……麗しい……)

 あーうん。君はいいや。相変わらずでなにより。

「……あ、いけない。うっかりしとった!」

「は、はぁ。なにがっすか?」

「こほん。仕切り直しても?」

「どうぞ」

「では改めまして―夕餉ゆうげにしはりますか? それとも風呂にいたしますか? そ、それとも……うちを……め、召し上がりになります……か?」

「「…………」」

 同じ沈黙なれど意味は異なりてってね。

 彼は隣の雪日ちゃんの反応にビクついて、雪日ちゃんは頬を赤らめる彼女に尊死寸前。

 いや君たちね。慣れなよいい加減。

 で、雪日ちゃんが怒ったりしてないというかそれどこでないことを確認すると、彼も彼で彼女に欲情ってね。

(この人の前でこういうことはしてほしくないけど……それはそれとして本当細かいことどうでも良くなるな……)

 全く。若い男なら仕方ないのかね。相手が人外のモノの可能性があっても満たしてくれたらそれで良いんだろうかね。そのあたりの機微はやはり個体差でちゃうかな?

(……でも、さすがに今日は尋ねてみようかな。これからも一緒にいるなら腹割って話すのも大事かもだし。花菜さんがなに抱えてても俺は受け入れるつもりだし)

 露見してもデメリットほぼないしね。年取らない尽くし体質の性欲の強い美女ってむしろメリットしかなくない? あとついでに金持ち。経済的問題は割りと大事。

 あ、いや年取ったら相手が大変か。体力的に精力的に。

 若くても一歩間違えば腹の上で死ぬか腹の上に股がられて死ぬ。

 彼女が彼の性欲が落ちつく年齢の頃に我慢を覚えるか一緒に落ち着くって仮定があればデメリットは消えるかな。

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