第592話
「覚えてる? 中三の頃の私に起きちゃったこと」
「………………まぁ、そりゃあ」
ちょっとナイーブな話なので言葉が詰まっちゃったか。
まぁでも詰まったのは女性関係ができたからだろうね。
何故なら伊鶴ちゃんに起きたことっていうのが、悪ガキに目をつけられて集団で襲われたことだから。女性として複数の男性にね。
中学の頃には派手にしていて、誰かとつるんだりグループに入ることもしなかったから、目をつけられやすかったのさ。
それで味方のいない伊鶴ちゃんは良い捌け口になるはず……だった。
過去形なのはあれよ。タダでやられる女じゃないから。
当然のごとく最中の動画を流すぞーってお決まりのもあったけど。
それでも、彼女はヤられまくったあと、疲れ果てて寝ている男たちのアレを踏むは噛み千切るわで全員再起不能にしてやったのさ。初めてで痛かったろうに。身も、心も。
けど、やられっぱなしでいるほうがもっと辛くなっていくから。脅しに屈したら余計に沼にはまっていくから。
怒りも絶望も動力に変えて。伊鶴ちゃんは間も置かず報復してやったのさ。
けど、ね。再起不能にしてやったは良いけど。お互いがお互いを害したわけだから穏便に済むようにされたはされたけど。
でも、人の口は止められないから。噂は広がったんだよ。伊鶴ちゃんがしたこととされたこと。
で、まぁ変な目で見られるわけじゃない?
気を遣ったり。あわよくばと無神経な思春期ぬんたちが欲を出したり。幼馴染みなんて泣きながら憐れんでさ。
そういうの、本気で嫌いなのに。
で、そんな中で態度を変えなかったのが彼ってわけ。
いやまぁ想像してもどれだけ辛いとかわからなかっただけなんだけどさ。
で、彼女と色々して、想像しやすくなっちゃったわけだよ。
だもんで、さっきは言葉が詰まっちゃったわけ。なんなら、謝罪の念まで芽生えたくらい。
でも、長い付き合いだから。そんなものよりいつも通りに接するほうが良いくらいはわかる。
だからできるだけ平静を装う。
でも、そんな小手先。
(まったく。ぶきっちょめ。そんなとこも可愛いけどさ。でも、やっぱ完全に変わらないこたぁないか~。もうすぐ卒業だし、そりゃそうか)
「で、それがなんだよ」
「……へへっ。いや、なんでもな~い――よっと」
(ここで告白したって意味ないしね。てか、好きな人困らせる女なんて愚の愚っしょ。そんな自分がスッキリしたいだけで告るとかない。区切りなんてのは自分の中でだけでつけりゃいんだっての)
「んじゃね。ヤりたくなったら電話しな坊や」
勝手に絡んで、勝手に区切りをつけて、教室から出ていく。
涙はなく。むしろ笑顔で。心の中も穏やかで。あるのは二つ。一つは完全な失恋の余韻。もう一つは。
(ちゃんと幸せになれよ。なれそうになかったときゃもらってやっけどさ)
祝福。
「…………」
いつもと少し雰囲気の伊鶴ちゃんの背を見送り、色々と勘ぐるけど最後に呟いたのは。
「……連絡先、知らねぇっつの」
何気ない一言でしたと。
あ、卒業式の日に連絡先は渡したそうよ。
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