第590話

 結論から言うと、結局彼は交通費というか最寄りの定期はもらえることになりましたよと。

 まぁ最終的に? そのあたりなんとかしたのは雪日ちゃんなんだけどね。

 曰く。

「貴女は彼を若燕にしたいんですか?」

「……!?」

 との言葉が効いたようでね。

 ほら。彼女からすればむしろ逆を望んでるわけだし。自分が下でないと気持ちよくないからさ。

 で、まぁここからはあまり変化がないので時間を飛ばさせてもらうんだけれど。申し訳ないね。

 だって通ってヤッてくらいしかないんだもの。一体何を紹介したら良いのさ。だから了承してくれたまへ。

 まぁ気が向いたらいつか彼らの情事も見せてあげるよ。

 まずはこの話の続きをしようか。彼女からしたらついでって感じだけど雪日ちゃんからするととんでもないお話を。

「あ、ところでセツ」

「なんでしょう? 定期は私がちゃんと彼に渡しておきますが?」

「そうやのうてな? んとな?」

「なんなんですかもったいつけてかわいいですね」

「髪切ろおもてんな?」

「――――」

 モジモジして髪をいじっちゃっていじらしい姿に萌ゆる気持ちを覚えつつ次の瞬間には地獄行き。思わず絶句しちゃったね。

「え、えっと……理由をお聞きしても?」

「あの方が短いほうが好みみたいなんよ。せやったらうちも合わせたほうがええんとちゃうかなぁ〜って」

「あんのくそがk――いえ、ちょっと待ちましょう。それは本当に確かなんでしょうか。会話の流れとかによる勘違いではなく?」

「話して知ったことちゃうんよ」

「では根拠はどこから?」

「それは〜……えぇっと〜……」

「言いにくいことなので? それともやはり――」

「部屋行った時に枕絵を見つけてしもうたというか、春本を見てしまったというか。あ、才様に言うたらあかんよ? その、気恥ずかしい年頃やから」

「……」

 気遣いのつもりだろうけどまずエロ本やらを見てしまったと他人に言っちゃ駄目でしょっていう。

「そいでな? 髪切ろ思うんやけどどうしたらええやろって思てん」

「早まらないでください! 綺麗な御髪なのに!」

「昨今髪長いから美人ってわけでもないしなぁ。ま、昔でもうちは――」

「そんなことはどうでもいいんですよ! 時代に逆行しましょ? ね? それにほら。実は長いほうが好きってことも」

「そん時はまた伸ばしたらええんとちゃう? すぐ伸びるし」

「大女様のすぐは信用ないですよ……」

「そいでどう切ろうか思て。床屋行くゆーてもこの顔やから驚かせてしまうしなぁ〜」

「そりゃ驚くでしょうけどそんなことより聞いてます? 私は切ってほしくないんですって」

「明日には切りたいんやけど、どうにかならん?」

「うぅ〜……耳に入ってないよこのボケ老人……」

「聞こえとるよ〜」

 だったら切らないで。いーや切るってやりとりを幾十と続けた挙げ句。結局和宮内家にたまたま美容師をしている子がいたので後日切ってもらえることになったとさ。

 髪を切った後の彼との営みは大層もりあがったそうな。

(うへへ。思い切って短くして良かったわぁ)

 本当。幸せそうでなによりだよ。

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