第589話

「……えっと〜。これはいったいどういう?」

 日を跨いで今度は自力で彼女の住むマンションまで来て見せられたのは…………三つ指つきながら差し出される現ナマ。それもぶっあついやつ。諭吉百人くらいの。

 何故こうなったかといえば、まぁわかるよね。

 (ま、まさか俺が金に困るって言ったから……? いや間違いなくソレしかないんだけど……だからって)

  デカいよねぇ。重いよねぇ。まだ子供だもの。

  いや、大人でも普通に重いよね。この金額は。

「どうぞ。お受け取りください」

「いやぁ〜……さすがにこれは……」

「足りませんか? ならもういくばか――」

「んなわけありますかい」

 定期何年分だよって話だしね。

 それに金額もだけど彼としては受け取りたくない心的事情もあるし。

(仮に桁二つ下げても受け取りたくねぇっての。んなまるで愛人っつーか。年齢差考えたらママ活みてぇだし)

 さらに別の言い方をするなら燕ってとこかな。情夫でもいいか。ヒモは……まだ一緒に暮らしてるわけじゃないしちょっと違うかな。

「でもここまで来るん大変ちゃいます? それに遊びたい盛りに欲しがり盛り。金子きんすはいくらあっても足りひんかと……」

「う。ま、まぁそりゃ金は欲しい気持ちはありますけど……」

(い、いや。よくよく考えたら交通費以外はそんないらねぇかも。元々出かけるのそんな好きじゃないし、刺激を求めるなら……目の前にいるし。欲しいのもこの人のせいでそうでもなくなっちゃったし)

 補足すると新しい大人のおもちゃのことね。あと潤滑油とおかず。

「じゃ、じゃあですね。本当、申し訳ないんですけど」

「はい」

「現物でお願いできません?」

「現ナマでなく現物……あ、金剛石いし?」

「……たぶん宝石のことだと思うんで言いますけど。違います」

「へ、じゃ、じゃあ現物って何を指して……」

「ここまでの定期っすよ」

「……あ〜」

 ここでようやく察した彼女。うん。君のスペック考えたら大分遅いよ気づくの。

「かまいやしませんけど、ほんまにええんですか? あったほうがええと思うんやけど……」

「……い、いらないっす」

 献上を受け取らない姿勢を見せられたもんで言葉を崩した彼女は視線を諭吉に向けながら尋ねる。

 そんなあからさまに注視する様子見せられたら彼の良心が鈍るっていうのに。ひどいことをする。

「そ、それより今日はするんでしょう? 放課後すぐ直行したつっても時間ないっすよ? いいんすか? そ、その……減って」

「……! そ、そらいけませんなぁ。時は買えませんし、うん。す、すぐにはじめましょうか」

 金への未練を断ち切るために彼女を誘う彼。

 そして二人は果てに果てて今は共にベッドの中。

「はふぅ〜……」

 彼女は先日彼の家を訪ねた時に満たせなかったモノを満たして大満足。

 彼はそれに付き合ったわけだから盛大な賢者タイムなわけで。冷静にこんなことを考えてる。

(やっぱ、ちょっともらっとけばよかったかも…………諭吉)

 まぁ〜うん。正直私もそれには同意。四、五人の諭吉拉致っても良かったと思うよ。

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