第585話

「次は……っと」

(ふむふむ。道具はなし。服もなしが多い。よう乳見とったしはだけ……いや裸のがええんやね。やっぱり。それと化粧は自然に寄せてるのばかり。濃いのは嫌なんかな? 他には――あ、この足音)

 かれこれ一時間近く彼を喜ばせる勉強に励んでいたものの。どうやら中断せざるを得ないことが起こってしまったよう。

「あ、あの~……」

「次はこういうのどうです? エッチな漫画なんですけど。リアルのよりもハードだから再現は難しいですけど。というか物理的に無理なのもちらほら」

「あ、うん。それはええんやけどね? それよりも……」

「花菜さんのお胸がどのくらいかわからないですけど。これも難しそうですよね~。あ、でもないならないで良いみたいなことも書いてありますね。この台詞考えた作者絶対ロリコンですよ。変態め」

「うん。色々考えてくれとってありがたいし、盛り上がっとるとこ悪いんやけど……」

「あ、こんなのもあるんですよ。やーらしー。パッと見固まったスライムなんですけどこれ実は――」

「……」

(もうすぐあの方が上がってくるんやけど、全然話聞いてくれへんなこの子……。はようせんと怒られてまうのに……)

 困った困った~。けどエロコンテンツにエログッズを紹介するという奇行を初対面の人にやるという行為に頭のネジが外れるわテンションぶち上げだわで言葉は届かず。

 なので進展のために彼のほうへシフトしよう。



(結局今日は迎えなかったな……。代わりに人の目が凄かったけど)

 彼は今帰り道。もう住宅街に入って自宅は目と鼻の先。

(よく知らないヤツに話しかけられるわ。当然の如く伊鶴あいつにも絡まれるわ散々だったな……)

 学校でのことを思い出しながら歩いていく。

(とりあえずこれ以上悪目立ちは嫌だし、迎えだけは断らないとか。あとで連絡いれとこ。ついでに今後のこともちゃんと相談しないと――っと)

 そうこう考えてるうちに到着。

「ただいま――ん?」

(なんだこれ。知らないヒールに……サンダル?)

 ドアを開けるとあるのは知らない女性モノの靴が二つ。片方はヒールでわかりやすいんだけどもう片方は簡単にいうと現代風お洒落下駄。うん彼女のヤツだね。

 もし片方だけならただのお客さんだろうなで片付いたろうけど。もう片方のがね。和風なもんだからこう……嫌な予感が沸々と。

「あ、おかえり~。お客さん来てるわよ」

(ま、まさかな……)

 と、思ってリビングに行くとそこにいたのはもちのろんまかのろん。

「どうも。天良寺才君。お邪魔してます」

「ど、どう……もです」

 どうしてと言いかけて切り返す。何故ならそこには一人しか客はいないから。そこで突っかかってるわけにはいかないと本能が囁いた所為。

「大女様なら貴方の部屋ですよ」

「な!?」

「勝手にあげちゃった♪」

「……!」

「あ、こら! お客さんの前で!」

 走り出す母の声なぞなんのそのー。彼は急いで自室に向かうのだ。

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