第583話
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……」
「……あ、ども」
しばし見つめ合い、それから彼女からお辞儀を一つ。応えるように結嶺ちゃんも届かぬ声と共にぺこり。
そしてしんきんぐたーいむ。
(ものすごい和風美人が兄さんの部屋にいるって時点で例のあの人なのは間違いないんだけれど……兄さんがいない部屋で兄さんのベッドに飛び込むって……なんか……)
最初は騙されてる可能性だってあると思ってたし、彼の言うこともあてになるかって言われたら童貞の妄言とも取れるわけだから信用に足らないと感じてはいた。
けど、今の状況を見てしまうと。どうにもこうにもガチにしか見えないよねぇ。
(いや、でもただ性欲が強いとか若い男が好きなだけかもしれないし……ってかパッと見同い年と言われても良いくらいの女性なんだけど……本当に超年上……?)
倍以上らしいとは聞いてるけど。見た目が若々しすぎて弄ばれてるとは別の疑いを持ちつつ。
(う~ん……いっそここは一つ思いきって)
その疑いを晴らす手っ取り早い方法もあるじゃないとなっちゃう。そんな現状況。
「よいしょ」
「へ!?」
窓を開けて向かってくる
「あ、どうも。失礼します」
「あ、いえいえ。うちの家ちゃいますし――」
(ん? うちん家ちゃうんかったら勝手に開けたらあかんとちゃう?)
うん。そうだね。もう遅いけどね。
「――それでですね」
「は、はい」
「兄さんとの今の関係はわかってるんですけど。これからどのような関係を目指してるんですか?」
軽く自己紹介を終え、改めて向き直るお二方。
結嶺ちゃんは本題に入ろうと試みる。
けど。
「どういう……言われても。今の関係を続けられたら良いなぁとは思うとりますよ?」
「……愛人関係的な?」
「あ、愛人やなんてそんな……/////」
(照れるとこなの? 結構嫌な言い方したつもりなんだけど……)
これだもん。探りを入れようとして踏み込んだのにこんな反応されたらねぇ? 逆に困惑だよ。
「じゃあ、もしもなんですけど」
「はい? なんでしょ?」
「兄さんが恋人とか。結婚とかしたいって言ったらどうします?」
「…………」
(あれ? そこは言い淀むんだ)
目を見開いて。口を結んで。下に目をやりながらゆっくりと結んだ口を緩めて言葉を返す。
「それは……気が進まんねぇ……」
「な、なんで? 兄さんが留守の中ベッドに飛び込むくらい好きなんですよね?」
「そ、それはそうやけど……」
(や、やっぱり見られてたんか……。恥ずかしくはないけど気まずいなぁ……)
この気まずいっていうのはうら若き少女に汚いもん見せちまった的なやつね。
ほら。ブスが気色悪いことしてるみたいな感覚だから彼女にとっては。
そんなもん子供に見せたらそら罪悪感がね。まず彼に抱けって話だけど。
「こほん。好いとるからこそ。うちを娶るなんてしてほしくないんよ」
「…………」
でも、結嶺ちゃんにとっては美人がガチってるだけ。
だからこそ、この彼女の様子は腑に落ちないんだよね。
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