第582話

「こちらです」

 二階にある彼の部屋に案内され、扉は開かれる。

「すぅーーーーー……」

(ふぉ、ふぉぉぉぉぉぉぉお……!)

 直後室内から香る染み付いた彼の匂いに理性が吹っ飛びつつ。どうにか平静を保ってるも限界と決壊が近いね。

 あ、決壊っていうのはの話。あとは察して。

「では大女様はこちらで。私は将来についてのご相談をしてきます」

「将来って……な、なるほど……なるほどっ」

 正直な話。母としては心配だったみたいよ。お嫁さんは最悪お隣にいるから良いとして、職ともなると……ね。彼、人付き合い下手だし。かといって創作力もないから。会社もフリーランスも難しいって思ってたようだから。

 そこに舞い込んだ逆玉これ。そら鼻息も荒くなる。

(この話をモノにすればあの子の将来は安泰! それにあのお嬢さんも満更じゃないみたいだから孫の顔も早いかも! 片方は才だからアレだけど、もう片方があんなに美人さんならイケメンな孫が産まれておばあちゃんだなんて甘えられたりしちゃったりして……)

「ぐふ。ぐふふふ。楽しみだなぁ~……」

「…………」

(まだなんの話もしてないのにご機嫌だ)

 お目出度いひとと思いつつも口には出さない。やはり彼と彼女が関わってなければちゃんとした大人なんだね。貴女は。



「…………」

 保護者組がリビングに戻っていって取り残された彼女とはいうと。

(ええんかな。これ、ええんかな……)

 とっても葛藤してらっしゃる様子。

 なにって? そらあんた。

(あの方の匂いが染み付いた寝具……)

「ごくり……」

 はいそういうこと。ダイブするか否か迷ってるんだよ。

(あ、あかんよね……。はしたないし……)

 いやはしたないことはすでにたっぷりしてるんだわ? 最早迷うとこはそこじゃねぇんだわ?

(い、いったら逝ってまうのはようわかる。わからいでか。しかし、しかして時に女は……)

「……………………どっっっっきょう!」

 あら。結局奇声をあげながら飛び込んだよ。

「すぅっはぁっすぅっはぁっ! ふすふすふすふすふす! あむあむはみはみれろれろ」

 まぁ、わかってたけどね? 彼女の理性がこんな程度って。わかってたともさ。

 ただちょっと擬音だけでわかる行動が気色悪いなとは思うよ。マジキモ。

 いやーでも本当に良かった。良かったよとっても。

 そんな奇行なんて角度的に見えないからさ。ベッドの高さ的に真横の窓から飛び込んだとこまでしか見えないから。

 どこからって? 当然。

(誰だろあの人……兄さんのベッドでナニを……)

「はぁ……! はぁ……! ……………………ハッ!?」

(あ、見つかった)

 お隣さん♪

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