第581話

「…………本当のことをおっしゃってください」

「へ?」

「貴女のような美人をあの子が射止めるなんてあり得ません! どんな汚い手を使ったんですかあの子は!?」

((自分の子供に対しての信用のなさ……!))

 彼女の顔を確認してしまえば……そりゃあねぇ~……。平凡でボンクラで根暗でスケベなだけの普通の高校一年生だもの。お姫様を手に入れるには不相応なスペックだし。親ってことを差し引いても疑わざるを得ない。

「ハ!? そ、それともあの子を弄んで……!」

「しょ、しょんなことできましぇん!」

「あ、いえもしそうだとしても構わないと言いますか……」

「……はい?」

「……理由をお伺いしても?」

「だってその……和宮内(花菜)さん。美人なだけでなくあの子の好みだと思うので。良い思い出になるんじゃないかなと」

「なるほど」

(なして雪日この子は今の納得でけたんやろ……?)

(あ、こっち向いてくださったっ。正面のご尊顔が眩しい……!)

(なしてこの子はうちの顔を見て変顔すんねやろ……。醜女ブスって暗に言いたいんやろか)

 だってこの通り、この場で花菜という女に対して評価低いの自身だけだもの。納得できないのが一人だけになるのは当然よね。

「こほん。と、とにかくですね。う、うちはその……恋人やありませんよ? ただ、お慕いは……しております……。はしたないことも……してしまって……」

「…………」

 あ、このはしたないは別にエッチな……いやそれも含まれるけど。女からあからさまに求めるの全般を指してる言葉ね。

 誘いは当然するものの、基本的に彼女の価値観では直接的に女から行かないのが普通だから。

 ほら、メインで生き抜いた時代が平安前後だし。女のとこに男が夜這いかけまくる時代だもんで。それで相性良かったら結婚もっていう。

「こ、こほん。じゃ、じゃあその……ふつつかな息子のこと……お願いいたします」

「……! い、いえこちらこそ不束者ですし、至らない女でございますが、あの方が飽きるその日までお願い申し上げとうございます――

「…………」

 素早く義母(仮)のほうへ行き三つ指をついての上目遣いがもたらす本日何度目かの絶句。

 まさに本場の三つ指だもの。旅館の女将するモノと格が違う。

 さらに。

(お、お義母様!!!)

 なんて呼ばれちゃあねぇ~。緊張なんてぶっ飛んで感激の雨霰ですよ。

「ほ、本当に騙してるわけではないんですね!? 本当ですね!!?」

「もちろんにございますお義母様。この身はもう……ぽっ」

 意味深に頬を染めて意味深なことを宣う良家の子女に見えるババアの手を握ってうんうん頷いてる。

(仮にこれが演技でもこんな可愛らしい方に義母扱いされるなんて一生ないし。本当なら息子は逆玉に乗って将来安泰! どっちに転んでも良い夢が見れる!)

 どうやら美人局の可能性は捨てきれてないけど。同時にそれでも良いと思い始めた様子。これはこれはとってもポジティブ。

「お気持ちはわかりました! 息子をどうかお願いします!」

「は、はい!」

「あ、ということは今日も本当は挨拶とかでなく息子に会いに?」

「あーいえ。息子さんにも今日のことは言ってないんです。ただ、恋人ができたと思われたからどうしようと相談を受けてご挨拶に。改めまして本日は突然申し訳ございません」

「いえいえ! 良いんです! こんな可愛らしいむ、む、む、娘ができたんですから! 突然だろうがなんだろうがなにを不愉快になることがありましょうか」

「まぁ、お義母様。お世辞でも嬉しゅうございます。それに、お義母様はう――わたくしなど及ばぬほどお美しくあられますよ」

「えへえへ。それほどでも」

(もう。お口が上手い娘なんだからぁんもう♪)

 満更でもない面しちゃって。謙遜が仕事してないわ。

「ただ、大女様が息子さんに会いたいと思っているのも事実なので、お部屋で待たせていただいても? あ、私はもう少しお母様とお話を」

「ちょ、セツ!? そんな部屋でなんて失礼――」

「あ、はい! どうぞどうぞ!」

「え、あ、あの……!?」

 ということでこれまた突然に彼女は彼の部屋で待つことになったとさ。

(部屋……才様のお部屋……! ええの? ええのん!?)

 罪悪感と興奮で頭の中はぐちゃぐちゃ。けど、足は一切重くなることなく義母に連れられて部屋へと向かう。

 うん。体は正直。

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