第572話
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
(き、気まずい……)
車に乗ってしばらく無言のまま。
雪日ちゃんは悪態をつくのを控えるため。彼はバックミラーに映る顔が怖くて口をつぐんでいる。
「……天良寺くん」
「は、はいっ」
おっと。唐突に沈黙を破りにかかったね。本当に急にだから彼の声もうわずってるよ。
「貴方は大女様と関係を持ちました」
「そ、そうですね」
「あの方は長らく、私たちにさえご尊顔をお見せになったことがないし、男性経験なんてあるわけもない」
「は、はい……」
彼女が初めてだったのは彼もわかってるからね。指摘されたら縮こまっちゃうわ。
「そんな方と関係を持ったということは、責任を取るつもりあるんですよね?」
「も、もちろん」
「どうやって?」
「えっと……それは……」
痛いところを突かれちゃったね。彼は子供だもの。責任を取りたくても取れない立場だ。
当然。それをわかってて言ってる。
「……さっきも言った通り。貴方は子供で、私や大女様が大人。であれば私たちが君にした行為が問題視されて、あの方が責任を負わなければならない」
「……」
「そんなことはね。わかってるんだけど、わかった上で貴方に責任を取ってほしいと思ってるんだよ。私にとってあの方は大切だから」
「……は、はい」
言葉が思い付かない時。誰しも返事しかできなくなる。彼も類に漏れることはないね。
「でも、貴方は責任の取り方がわからない。だから責任の取り方を提示しようと思います」
「……はい」
「一つ。弁護士に頼んで性被害における慰謝料、この場合は示談金になるかな? を、計算してもらってそれを支払ってもらう。裁判なんかは我々の都合でできないし、未成年だとかなり罪が軽くなってしまうからやらないけれどね。もちろん大人の加害者として計算してもらう」
「……」
冷や汗をかく彼。示談金とか言われたら大金を想像するからね。
ちなみにこのケースだと百万とか、高くても五百万くらいで落ち着くはずだよ。
一生は大袈裟だね。バイトしてれば上手くやれば五年とそこそこあればなんとかなる。
「二つ目は大女様のおもちゃになること。あの方が望むことを全てやってもらう。踊れと言われたらやってもらうし。足を舐めろと言われたらやってもらうし。全裸で公の場を徘徊しろと言われたら警察にお世話になろうともやってもらう。大女様を人として踏みにじる行為をしたんだから人権なんて捨ててもらう」
「……」
超とんでも理論だけど筋は通ってるっていうね。法的にも憲法的にもダメだけどさ。
「三つ目は……正直これは私は嫌なのだけど」
「……?」
一呼吸置いて、最後の提案。
「大女様を、これからは大切にしてほしい。死ぬまで。あの方に幸せを感じさせてほしい」
「…………」
最後の最後である意味で一番大変な提案をされて、彼は思わず絶句してしまった。
だって、それは――。
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