第571話
「――それじゃ、今度こそこれで」
「……うん。また来てね」
「う、うっす」
別れのキスを済ませてドアを閉め、思いっきり深呼吸でもしてひと段落つこうとつこうとしたところで。
「すぅ~……ふぅ~……」
「終わりましたか?」
「!?」
声をかけられると。
声をかけたのはもちろん彼女の付き人雪日ちゃん。
「終わりましたか?」
「は、はい……。えっと、お待たせしてましたか?」
「勝手に待機してただけなのでお気になさらず。思ったより長かったのは確かですけれど」
「う……っ」
(そんな言い方されたら気にするなは無理っ)
刺さるねぇ。チクチク刺さるねぇ。
事実を言ってるだけなんだけど彼はそうとは受け取れないねぇ圧があるよ圧が。
ま、圧があるのもまた事実なのだけれど。
ま、良い大人だから多少の腹芸はできるが故に彼には本音部分は見せていないけれど。
というか、見せようものなら手が出るからね。手が。または足が。
「では、行きましょうか」
「行く……今度はどこに……ですか?」
「貴方の家に。送りますよ」
「それは……助かります。ありがとうございます」
「いえ。思ったより長く引き留めてしまったようなので。ご両親にもご挨拶をせねばいけませんから」
「え」
「実際は長く引き留めたのではなく留まっていた可能性はありますがね。ま、結果的にこちらが連れてきたのは事実なので。大人としてそれなりに筋は通さないと。子供がなにをしでかそうと責任は大人が取るものなのでね」
「そ、そうっすか……」
(なんだろう……やっぱこの言い方責められてるようにしか思えない……)
うん。そうね。たくさん含みを持たせてるねこれは確実に。
でもおかしいな。雪日ちゃんも彼女について京のいけずな言葉使えるはずなのに。彼に対しては全然使わないな。
(ちゃんとわかってるんだろうな? えぇ? わかるようにうっすいオブラートにしてるんだから気付けよクソガキ)
……ある意味いけずだね。こっちのがさ。
「さ、立ち話をしてる暇はありませんよ。行きましょう」
「は、はい」
「あ、一つ朗報です」
「な、なんでしょうか?」
「送るのは私一人なのでさっき借りてきたレンタカーです。リムジンは大女様用ですし、なにより機能性はあっても目立ちますから」
「それは……ありがたいっす」
家の前にリムジンが停まるなんて想像するに恐ろしいものね。
ご近所の目も。親の追求も。
これは普通に朗報。
でも、彼に意地悪したいならむしろ乗っていったほうが良かったよね。それが駐車場にいくまで黙っておくか。
まったく。意地悪なところあるのに不器用なんだから。
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