第570話

「それじゃ、俺はこれで」

「うん」

 色々とシていたらばあら不思議。もう十八時を大きく過ぎて十九時近く。

 こんだけ遅くなってたら親からの連絡もまぁスマホに届いちゃって大変大変。

 ま、高校生にもなれば多少遅くなっても軽く注意されるだけで済むこともあるよね。

 特に彼の家庭の場合はやや放任気味だから正に無問題。連絡くらい入れときなさいって小言を言われるくらいだね。

 だもんだから彼は焦らず彼女とゆっくり挨拶をかわせるわけさ。

「……また、会える?」

「ね、願わくば……そりゃ」

「ほうですか……。なら、うちここにおるから。いつでも来てください」

「う、うっす」

「……ほんたら、また」

「はい、また」

「…………」

「あの……?」

(その手はなんすか……)

 別れるタイミングだったのに袖を掴みよるこの女。

 顔をよく見てみると下唇を甘噛みしたり上下の唇同士をもむもむしたりと口寂しい様子。

(これは……そういうこと……か?)

 うん。ご想像の通り。だよ。

 どうやら浴室のが気に入ったようだね。

 とはいえ、口に出してのおねだりは積極的過ぎるんじゃないかとかそういうちょっと的外れなことを考えたりもしてるのだけれどね。彼女。

 さっさと帰さなきゃいけないっていうのに。キスしてって言えば済むことをそんな回りくどく……。

 ここはさすが日本人とでも言っておこうか? ん?

「あー……えっと……さ、最後にしたいなー……なんて」

「……よろしいですか?」

「ど、どうぞ」

「……っ」

「あぶっ」

 許可ヨシをもらったのでちょっと勢いよく彼へ自らを重ねる。

 舌を入れた、口吸いってやつ。

「「………………」」

 端から見ればただ重ねてるだけ。

 でも実際は結構激しく彼女の舌が彼へご奉仕なう。

(や、やっぱこの人に任せるとあんまり音がしないな)

 さて、何故でしょうね?

 って、別にこれといってタネがあるわけじゃないんだけどねー。

 ただ、彼女にとっては空気も不純物扱いなわけよ。

 空気の隙間をなくすように自分の粘膜を常に彼の粘膜に離さず擦り続けてるわけさ。

 だから外へは音は漏れない。代わりに『ニュルニュル』『にゅぐにゅぐ』みたいなイメージ音が彼の脳に叩き込まれてる。

 そんな音は鳴ってないけど。触覚からのイメージでね。

(あぁ……本当この人加減ってのを全然してくれねぇな! これじゃまた……)

 既にすっからかんなのにってね。

 大丈夫だよ。君が我慢すれば彼女はこれ以上子作りをしたがることはないから。

 あと少し口だけ許せばいいのさ。


 少し、とは言ったもののこれから十分はねぶられ続けたんですけどねー。ふふふ。

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