第563話
「とにかくダメですからね? そんな現場に同席するこっちの身にもなってください」
ここで親戚とか肉親とかを使わないあたり上手いね。夕美斗ちゃんは慣れない嘘をつかないと誤魔化せないのに。これが人生経験の差ってやつかな?
「わかってるよ。うちはかまへんとしても……」
「………………俺も人前はちょっと」
視線を向けられてからラグはありつつもなんとか察せたね。
というか、彼女も普通はそこに羞恥心覚えることは認識してるっていう。
「じゃあなんですか?」
「そ、それは……えぇっとぉ~……」
(え、今度はなに?)
さっきのはわかっても、今回のジロジロ全身をなめ回すような視線の意図は掴めないご様子。
なので彼女は躊躇いながらも口にすることに。
「ふ、触れ合いたいなー……と、思ったり……」
「は? やっぱりおっ始めたいってことじゃないか。盛りすぎです。お年を考えてください」
(……いったい実年齢いくつなんだ? 俺が思ってたよりもやっぱ上……なのか?)
彼女の言葉より雪日ちゃんの言葉に引っ掛かりを覚えつつ。しかして口は挟まず。
沈黙は金なりってね。
「ち、ちゃうって! そういうんやなくてぇ……」
「……あぁ。全年齢かR18かの違いですか。ややこし」
「勝手にとちったんはセツやんかぁ……」
(……可愛い)
「……まぁそのくらいなら良いんじゃないですか? 健全な範囲ならば」
「えぇ~……」
非難に対して抗議はしてるんだけれど、先の諸々があって珍しく強くはでれない。そんな彼女を心の中で愛でつつも、彼に視線を向けながら軽く促す。
でもさ? 思春期に人前でイチャつけはそれはそれで酷よね。
いやまぁ人前でイチャイチャする中高生もいるけど。彼は人前で出来ないタイプだから。
「あ、べ、別に無理にしたいわけや……ないから。気にせんでええよ? ほんまに」
「……」
「……へっ!?
(……この男。やりおる)
無言で。顔を背けながら彼女の手を握る彼と、驚く彼女。そして目を細めてシラけた目を向けつつも内心は称える雪日ちゃん。
(あ~くっそ。恥ずかしいっ。顔あっちぃ……!)
面をつけてて顔は見えないけれど。鈍い彼だけれど。さっきのは察せなかったけれど。それでも今このときは幸か不幸かわかってしまって。
本当は嫌だけど。仕方ないよね? 初めての
「こ、これで良い……っすか……?」
「うん……うんっ。とっても……嬉しい」
(なんでやろ……口重ねた時よりもずっと――)
快楽を覚えている。
普通の女性が達した時くらいは今彼女の頭からはドバドバ脳内物質が出てるのだけれど。彼女の理性はそれを表には反映させない。少なくとも普通の女性が好きな男と手を繋いだときくらいの反応に留めている。
そのことをその場の誰一人わからないことだけどね。彼女含め。
ほら、彼女察しは良いとしても普通の人間の感覚なんて知らないし。自分のことしかわかんない部分だしね。感情とか快楽とか。
ま、とにかく表面上はとっても健全なシーンだよ。
ただ、その。彼としては。
「……」
(くっそ! そんな冷めた目でこっち見るなっつの!)
雪日ちゃんの視線が本気で嫌みたいだけどね。
いや、冷めた目ではあるしイラついてはいるけど。同時に彼女を喜ばせたことは誉めてるから。
彼は知る由もないけど。
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