第560話
「で、どうしよう?」
「まず離せ」
彼を引きずりながら目の前まで来たところで夕美斗ちゃんのほうへ振り向いて尋ねるけれど、返事は腕の中から。タップ付きで。
「……ったく」
やっと解放されたところで依れてしまった制服を直しているけど。はてさて、身だしなみを整えているのは引きずられて依れたってだけが理由かなぁ~? ふふ。
「で、どうするの?」
「とりあえずメッセージ送ってみる」
「……」
夕美斗ちゃんがやりとりをしてる間手持ち無沙汰になってしまったので彼の視線は車へ。生リムジンなんて見る機会なかなか無いからね。
(本当に長いなぁ~。やっぱ高いのかなぁ~。窓は……サングラスみたいで中は見えな――ん?)
ここで彼は違和感を覚える。目を凝らすとなにか影みたいなのが見えたから。
気になってさらに顔を近づけて見ると。
(ひ……と? 人影?)
「うお……っ!?」
観察していたら窓が下りていって、人影の正体が露になっていく。
白い鬼の面に長い黒髪。そして鮮やかな色彩の着物。
うん。間違いなく彼女だね。
彼女なんだけど、ちょっと様子がおかしい。
「ふー……! ふー……!」
(す、すごい鼻息……。ど、どうしたんだろう?)
自覚してから初めて且つ久々の彼の姿を見て脳から大量にあらゆるモノが分泌されてるようだねー。
そうだな~。わかりやすく言えば動物が死ぬときのさらに五百倍は出てると思って良いよ。
ちなみに死は営みの二百倍分泌されるとも言われてるよ。参考までに。
ようは彼女でなければ幸福感やら快楽に耐え切れず死んでてもおかしくないってこと。
とはいえ、理性で抑えきれる範囲は軽く振り切れてるわけだから――。
「えっと、お久しぶりで――ぎゅぶふっ!!?」
「んむぅ! ふー! ふー!」
「WTF!? OMG!」
「な、な、な、なにしてんのおばあちゃん!?」
「大女様! そんなモノ食べてはいけません!
お腹壊しますよ!?」
「食べてるのぉ!?」
突然車の窓に生徒が引きずり込まれるのを見て野次馬もザワザワ。
え~。何が起きたか説明が必要……だよね。
まず、窓が開いたと。
彼が挨拶しようと近づいたと。
彼女の理性が限界突破したと。
思わず彼を掴んで窓から引きずり込んで面をずらしながら彼の口にむしゃぶりついたと。
そんな感じ。
その姿が余りにもあんまりだから食べてるように見えたんだろうね~。
それくらいガッツリ彼の口は彼女に咥えられてるから仕方ないよねー。
「大女様! 早くペッてしてください! ペッて!」
「おばあちゃん! それ食べ物じゃないから! 天良寺君! 無事か!?」
「
「
「頭抱えてないで君も手伝って!」
「O,OK! じゃない。わかった!」
パニクって母国語になってたマイクくんも引き戻して彼と彼女を離そうとえっこらえっこら。
この時。彼女以外が同時に同じことを思ったんだよね。
(((力強っ!!?)))
はっはっはー! それはそう。
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