第558話
「な、なぁ……」
「……」
校門に向かう最中。気まずそうな顔で呼び掛けるも無視。
夕美斗ちゃんは周りの視線を集めながらも逸る足を抑えられないようね。
「お、おい……」
「…………」
また声をかけるけど無視。それに反して周りからの反応は増えていく。
彼が求めてるのは有象無象の反応じゃなく前を歩くたった一人のお返事なんだもの。
いやむしろ目立つのが嫌いな彼からしたらマジでいらないだろうね。この視線とヒソヒソ話。
「ちょ、ちょっと待ってって……」
「ごめん。今は無駄口叩かずにきびきび歩いて」
「わ、わかったからせめて手をだね……。離してくれって。いや本当に。真面目に。切実に。お願いですから」
「あ、ごめん。急いでたからつい」
二人はなんとおててを繋いじゃってるんだよね~。そら注目浴びるわ。大胆ゆーて。
ま、二人ともそんな色気のある面してないけどさ。
「おいおい。そんな言い方はないだろう? せっかくのチャンスだったのにさ」
「なんのだよ」
「女子との触れあい」
「結構ですっ」
「贅沢なヤツめ」
そりゃあねぇ~。女子……とは言えないけど、女性との濃厚接触はしてるしね。手を繋ぐくらいじゃなんとも思わないかもね。
「ほら、急いで」
「あ、お、おう」
(そういえばあの人が来てるんだった。こいつの相手してる場合じゃねぇや)
改めて夕美斗ちゃんと並ぶように歩を速めるけど。でも、顔は少しだけ陰りを見せてるね。
まぁ、彼としては会いたいと思いながらも会いたくないだろうから。
ほら、色々とね? やらかしてはヤらかしてるわけだから。気まずさは天元突破だもん。
(い、いったいどの面で会えば良いんだろ……)
その面しかねぇだろってね。それに、心配いらないし。
それに、あの日々の中で彼女は常にご機嫌で。荒々しく猛々しい若者の衝動を微笑みでもって受け入れた度量がある。というか普通に本人も楽しんでたし喜んでいた。それは彼もわかってるわけで。
だから、そう。ただ気まずいだけで。気恥ずかしいだけなのよね。
ほら、仲の良い親戚と昨年の正月以来に会うってなったらなんか気恥ずかしいじゃない? 子供なら特に。
彼が今感じてるのってその類いなのよ。それも肌を重ねた相手なわけだからさらに度合いは上がってるね。
うん。だから彼が今考えていることは杞憂だし。本人もわかってるし。特質すべきことはなにもないのよね。
まぁ、なに? 甘酸っぱい青春ってやつよ。きっと。
少しばかり……濁ってるけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます