第557話

『というわけで天良寺君も満更じゃないみたいです。大おばあちゃんも心配しないで会いに来て。ついでに私にも』

「らしいです」

「ふんふんっ」

 リムジンの中で夕美斗からの報告を受けとる雪日ちゃん。直ぐに伝えると彼女は両頬に手を添えて鼻息が荒くなって……ちょつと興奮しすぎじゃない?

「落ち着いてください」

「……! ほ、ほうですか。夕美斗には良くやったとお伝え願い奉る」

「伝えはしますが奉りません。落ち着いてくださいよ。いくつですか」

「六千とか七千くらい」

「じゃあ年相応にお願いします」

「……死ねってこと?」

「言葉の綾です。では、行きましょう。心の準備は良いですか?」

「お、押忍」

「………………」

(ダメそう)

 彼も同じ気持ちと勘違い……とは言えないと思うけど。少なくとも度合いが違ってはいるけども。

 ともかくとして、彼は彼女に悪い印象もないということで彼女たちはある場所へ向かう。

 あるって伏せる意味もないけどね。こうなったら誰でもわかるとこだよ。



『着いた。連れてきなさい』

「……は?」

 放課後。部活に向かう途中に届いたチャットを見て思わず口についてしまう夕美斗ちゃん。

 こんな内容なら誰でもなるさ。端的過ぎるもん。

(着いた……着いたって……)

「なぁ、校門にすげぇ車来てるってさ。あの、あれ……長いやつ!」

「リムジンだろ? ちょっと見に行ってみんべ」

「…………」

(まさかそういうこと!?)

「……っ!」

 察しがついたとあらば行動あるのみ。踵を返して彼のもとへ向かう。

(なんでもうこっち来てるの!? 西にいるんじゃなかったの!?)

 あーうん。軽く説明するとだね。

 昼休みに様子を見てこいと言われて。に連れてこいって言われたわけよ。

 うん。午後の授業を挟んだけれど。逆にいえばそれくらいの時間しか経ってないね。忙しないこと。

(あーもう……。あんな別れ方したからちょっと気まずいってぇ~……)

 顔はあからさまにシワが寄ってゲンナリしつつ。それでも彼のもとへ向かう足は滞ることなく。焦る気持ちと急く両足。

(まだいると良いんだけど)

 って感じでかなり急いではいるんだけれど。走らない辺り真面目だよね。良いと思うよそういうところ。ルールなくして秩序も知性もないからね。ルールを破るだけの人間なんてドブネズミ以上の害獣だもの。

「あ、いた!」

 と、教室までたどり着くとちょーど彼が出てきているところ。これは捕まえるしかないね。

「天良寺君!」

「……ぅ!? な、お前……今度はな――んですか!?」

「昼の続きじゃね?」

 ドシドシ歩いて近づいてくるもんだからつい敬語になってるね彼。隣のマイクくんは冷静だけどさ。

 でも夕美斗ちゃん背高いし細身とはいえほぼ筋肉だからこう……迫力がね? あるから。気持ちはわかるよ。

「天良寺君!」

「は、はい!?」

「うわ、熱烈ッ」

 肩をガシッとつかんで真剣な顔を向けてくるから普段ローな彼も元気に返事。

 そして、次の一言でいつも通りに。

「大女様が来てるらしい。着いてきてもらえないかな?」

「…………は?」

 うーんデジャヴ。さっきの夕美斗ちゃんと同じ顔してら。

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