第556話
「ど、どうって?」
「いや、そのままの意味だけど?」
「……」
(ど、どういう意図だ……? この質問は……)
夕美斗ちゃんからすれば、単純に好きならこれからもよろしく。嫌いならオブラートに彼女に伝えてそれじゃあバイバイで済む話だし、美人という感想から前者になるだろうから問うことがもう消化試合のようなものと考えていたわけで。
反して彼からすると父親の勤める親会社の超大金持ちの権力者のお嬢さん? お姉さん? おばさん? 実際はおばあちゃんについて聞かれてるわけよ。しかも、ナニをしたか知られてる上で。親族にね。
第一に気まずいっていうのもあるけど。仮に正直に答えたとして、ポジティブに捉えるならばではセッティングするからまた相手してやってとなる。てか夕美斗ちゃんはそのつもり。
ではネガティブに考えたら? あんなことやらかしといて図々しいな? 父親クビにしてやろうか? なんならこちとら金に物言わせて危ない人たちけしかけることもできるんだぞ。
みたいなこともあるわけよ。いやないけど。少なくとも彼の中ではあるわけ。小心者かつ子供だからね。変な妄想繰り広げちゃうんだよ。
だから、この問いは正直先程までの他愛のない会話の流れを無視してでも警戒してしまうのさ。
「「…………」」
さて、膠着状態になったわけだけど。ここで口を挟むのは我らか
「どうってそりゃ、才にとってとんでも美人なんでしょ? それが答えじゃね?」
「私もそう思ったんだけど……もしかして、気を遣ってる?」
「いや、そんなことは……」
「あ、なるほど。そういうことね」
得心顔のマイクくん。どうやら察してくれた様子。
あ、勘違いではあるけど。良い方向にね。
「こいつ、照れてるんだよ。超年上に恋しちゃつて。しかもその親戚にどう思ってるって言われてさ」
「お、おい」
「あ、そ、そっか……ごめん。気が利かなくて」
「い、いやそうじゃなくて……」
ようは恋する思春期男子にお前うちのババアが好きなのかよ。禁断じゃん。ヤバ趣味じゃん。って言ってるようなものと気づいた夕美斗ちゃん平謝り。
実際その通りだとしたらむしろ怒るほうだと思うんだよね。独り身とはいえ同級生が自分のおばあちゃんに恋したとか言われてみて? 気まずいを超越するわ。
「わ、わかった! も、もうわかったから。本当にごめん! もう突っ込まないから!」
まぁでもそこはそれ。少し特殊な家庭だし? 夕美斗ちゃんも基本的に良い子だし。彼女の応援もしたいと思ってる側なのでね。本人から答えを聞いたわけでないにしろ結論は得たということでそそくさと食器を積み上げて席を立つ。
「じゃ、じゃあ私はこれで! 向こうにも良い感じに伝えておくから!」
「え、あ、ちょ……」
そのまま足早に立ち去る夕美斗ちゃんを止める隙はなかったね。
「……」
「なんていうか、春が来たんだねぇ」
「……二ヶ月は先だボケ」
そういうことじゃないのはわかってるけど。とりあえず悪態をつきたい気分の彼であったとさ。
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