第547話

(いつもはもっと食ってかかるのに。噛みつく元気もない? それとも……)

「もしかして、卒ってきた?」

「あ?」

「あ、じゃなくて。冬休みで筆下ろしたのかって聞いてんの。正月だけに」

(……上手いこと言ったった感ドヤ顔うっぜ)

 絡んでくるギャルにうんざ。しつつ。童貞やら筆下ろしやらの声に反応して見てくるクラスメイトに辟易しつつ。どう返そうか悩みどころ。

 でも悩んだのは数瞬で、普通に事実を話すことにした。彼目線でね。

「旅行先で大和撫子を体現した人に襲いかかって気に入られてそのまま爛れた休暇を過ごしたよ」

「…………………………はぁ?」

 内容を噛み砕くために数秒を要し、飲み込んでも理解及ばず。

 そりゃ端的にまとめられたとはいえ荒唐無稽だもんね。

「そんなエロ漫画みてぇなこと起きてたまるかいな。嘘も大概しろよ。掘るぞ」

「なにをだよ」

「そらさっちゃんの……だよ」

「死ね」

「シンプル死ねはやめな~。傷つくぞ~私が」

「そうか。死ね」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあ!」

「はいはい。もうすぐ授業始まるから戻って」

「へーい」

 と、上手い具合にやり過ごすことができたとさ。

 他のクラスメイトもあいつのことはよく知らないけどナンパでもしてフラれて落ち込んでるんだろうと思うことにしたそうな。

 ようは前半を信じて後半を嘘と断じたって感じね。事実しか口にしてないのにかわいそ。

 まぁ彼としては信じないだろうと思ったから正直に言ったから想定通りってとこね。



「はぁ……」

 それはそれとして、帰宅後も彼は憂鬱なまま。

 椅子に座って、目の前のPCには皆も大好きなあーゆー動画が流れていて、手には会員登録しなくても……すなわち年齢を開示しなくても通販できるサイトから手に入れた大人のおもちゃを使っても。彼の顔は晴れない。

 何故ならば――。

「くっそ……ヌけねぇ……」

 何故ならば、あの日から約七日。彼は致しても致しても至れていないから。

 彼女の体を知ってしまったが故に、御一人様が満足できなくなっちゃったってわけ。

(ネットじゃむしろに慣れると女じゃ満足できなくなるって言ってたのに……。逆じゃん……)

 強く、激しくすると確かに相手がいた場合のほうで物足りなくなるのは多々ある。それで上手くできずに気まずくなったりね。

 つまり、だ。彼女がそれほどまでに至高だったってこと。

 理由も私は知っているが……うん。話すのは憚られるかな。さすがに。刺激的すぎて。

 とはいえ傍観者、閲覧者諸君は気になってしまうだろうから軽くだけ触れるとだね。

 行為は普通なんだけど具合がよろしい。

 とだけ言っておこうか。

 内緒だよ?

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