第548話

 思春期真っ盛りが悶々としてる最中。おばばのほうはというと。

「…………」

 本家の洋館の一室にて、ソファの上で体育座りをしながら虚空を見つめ、ひたすらかりん糖をはむはむはむ。手元から消え去ってもひたすらはむはむはむ。

 面をつけていてもわかる。ボケ面かましてると。

 あのたった数日を反芻し、改めて冷静に考えると幸せだったなーと噛み締めつつ。同時に手放してしまって虚無感に苛まれなう。

 特に夜になるとムラムラ悶々として体が勝手に火照り始める始末。今は昼間だから落ち着いてるけどね。

 そして、そんな様子を傍で眺めているのは……まぁ察しがついてる人もいるから言っちゃうけど、和宮内雪日だよ。

「……大女様。おかわり持ってきましょうか?」

「………………んー」

 どっちに取って良いか困る完全な生返事。

 本家にいる間の世話係りとはいえ。二十歳から現在の二十三に至るまで仕えてるとはいえ。わかりかねるものもある。

 理由はもちろんわかってる。だってこうなったのはあの日からだから。

(休暇中なにがあったかは聞いたけれど、まさかここまで腑抜けてしまわれるとは……。クソッ。大女様をこんな風にした男を今すぐにでもかっさばきたい……ところだが、そんなことをすれば大女様が悲しむ。ついでに法的にも問題)

 殺人罪がついでて、いつどこにいてもおっかない子だねー。

 いや、それにまず彼の居所を割れよって?

 あ~そこは問題ないよ。

(ん~。最初こそあり得ないと思っていたが、こうなったらあのクソガキのところに連れていったほうが良いのだろうか……。男に溺れるこの方は見たくないがボケ老人になるよりかは……マシ……かぁ? それとも適当な男をあてがって一人に執着しないほうが……。それで男好きになって手当たり次第というパターンも考えると正直発狂モノ……。くぅ~……! 八方塞がり!)

 ぽけぇ老人に悩める二十三。数日間ずーっとこの絵面。

 しかし、ここで二十三決意す。

(うん。やはりこのままというわけにもいかない。ここは大女様にお教えしよう。幸いあの子が同じ学校だし、色々と手を回せるはず)

 思い立ったが吉日。その場で素早くチャットをとある人物に送り。終えた直後すぐさま彼女に告げる。

「大女様。そんなに思いを馳せるならば会いに行ってはどうでしょう?」

「……………………はい?」

 『思いを馳せる』と『会いに行く』というワードに引っ掛かり、ぽけぇ老人ぽけぇ脱出。

 すごい効力。さすがはじめての男に繋がる言葉。

「ですから、会いに行っては如何ですか? あの日大女様が出会った男に」

「――――」

 言葉は発っさずとも、仮面の奥の大きな瞳が見開かれるのを悟った雪日ちゃんは内心こう思ったのであったー。

(勝ったな)

 うん。まず勝敗じゃないし。

 それに君の目的は彼女がぽけぇ老人でなくなることと男に溺れないことでしょう?

 確信を得るには早いよ。

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