第539話

「そんなに悩んでるならもう誤魔化さず言ってよ。話すだけでも楽になるかもだし。一緒に謝るくらいはできるからさ」

「いや、本当に相手方は怒ってない……と、思う。許す許さないじゃなく。怒ってない。ただ、自分の罪深さがなんとも言えない苦いもので……」

「まどろっしいよ。結局なにしたのって」

「……実は――」

 彼も参っていたんだろう。最初は隠すつもりだったんだけど。はは。五分も持たなかったね。



「ってことをしてしまいまして……」

「…………」

「結嶺?」

「……ば」

「……?」

「バカなの!? よくそんなことしといて警察呼ばれなかったね!? え、その人は天使? 女神!? お人好しにもほどがある!」

「お、おう……。俺もそう思う……。むしろ謝られたくらいだし」

「それもおかしいけど。なによりも、兄さんはよくもまぁ私に話せたねそんなこと」

「お前が聞きたがってたくせに……」

「想像の百倍とんでもないことしてるから兄さんが悪い」

「お、おう。たしかに俺は悪い」

「で、なんかよくわかんないけど急に不機嫌? になって夜呼び出されたと。はぁ~もう……。そんなの従うしかないし、むしろそんなことで良いならラッキーも良いとこだよ」

 声はあらげたものの、当人同士で大体は解決されていて、ただ彼が罪悪感を覚えてるだけってことはわかったわけで。

 で、あれば彼女ができることは一つくらい。

「じゃあ私にできることはなんにもないね。しいて言うなら口裏合わせるくらい? おばさんたちには適当に誤魔化しておけば良い?」

「う、うん。頼む」

「……にしても」

「……ん?」

「まさか兄さんにそんな度胸があるとは思わなかった。えっちなのは知ってたけど」

「そ、それはどういう……」

「ベッドの下にえっちなDVD。クローゼットの上の棚に筒状のモノがあるのは知ってるよー」

「は!? お、おま! 人のっ。勝手に……!」

「うるさいなー犯罪者。見つかりたくなかったらちゃんと隠してよ。見つけたときどんなに気まずかったか」

(……今俺のがよっぽど気まずいわ!)

 正直な話。彼としてはこのタイミングで聞きたくなかったし。なんなら一生知らないフリをしてほしかったところ。

 が、やらかした男に対して。大した罰がないほうがいけないと彼女も思ったわけさ。その上での行動。

(最初は同情してたけど。そんなことならもっと悶え苦しめばいいよ。向こうの方がなにもしないなら代わりに私がってね。せいぜい自責の念と羞恥心に苛まれてね。最低男な兄さん)

 心の内からもわかる通り。彼女は彼を多少軽蔑しつつも嫌ってはいない。

 ま、ほとんど家族みたいなものだから。嫌う嫌わないって話でもないんだろうね。

 いや~彼は幸運だね。半ば事故とはいえ犯罪行為をしてしまったのに、見捨てない幼馴染みがいてさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る