第538話
「はい」
「お、おう」
自販機で缶コーヒーと紅茶を買い、彼に手渡して、受け取るのを確認すると彼が座っている長椅子の隣に腰掛け、紅茶を飲み始める。
そして、彼が飲むのを横目で見ると。
「あとで二四〇円ね」
「え、これそんな高いのかよ」
「いや、私の分込みで」
「……」
ちゃっかりしてるねぇ~。
彼も彼である意味話を聞いてもらう立場って感覚だから強く言えないし。不承不承となりながらもとりあえずは突っ込まないでおくことに。
「で、何してたの? こんな時間にふらふらと。おばさんたちはまだ寝てるから気づいてないだろうけど。一人で出歩くのはあんまり良くないと思うんだけど」
「ま、まぁ……うん。ちょっとな……」
「……」
(本当に珍しい……。兄さんがこんなに言い淀むなんて。しかも私に。普段なら悪態のいくつかは飛んできてるのに)
あからさまに様子のおかしい彼が本気で心配になってくる妹分。
こうなったら是が非でも聞き出すしかないと顔を覗き込んで目を合わせにいく。
「ねぇ。本当になんかあったの? ヤバイことしちゃったんなら正直に言お? 備品とか壊しちゃった?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「じゃあなに?」
「…………」
一呼吸。二呼吸置いて、少し内容を変えてなら良いだろうと判断して話すことにする彼。
まぁ、口下手だから。作り話なんてボロが出そうなものだけれど。
さてさて。お手並み拝見しようか。
「実は夜中に起きて」
「うん」
「寝ぼけてたんだけど。それでも喉乾いたからジュースでもって感じで部屋出て」
「うん。お財布は忘れてるみたいだけどね」
「………………それでなんか光ってるとこあんなーと思ったら女湯で」
「……うん。まさかとは思うけど」
「入ったら裸の女性がいて」
「なにしとんのじゃおどりゃあ!!?」
「いった!?」
話半ばに胸ぐらをつかみにかかる結嶺ちゃん。
ん~。健全な女の子らしい反応だねぇ。
「覗きとか言語道断! ちゃんと謝ってきたんでしょうねぇ兄さん! えぇ!? おい!」
「あ、謝った! 謝ったけど!」
「……けど?」
「そもそも、怒ってなかったんだよその人」
「……はぁ~い~?」
じゃあなんで様子がおかしかったのか。罪悪感だけであんなになるとは思えないと、手を離して改めて話を聞くことに。
「それで、どうしたの?」
「何事もなかったようにお前……」
「良いから続き。怒ってなかったのはわかったから。それでも万死だけど」
「わかってるよ。俺だって罪悪感は……罪悪感は……あぁ~」
話の途中で急に頭を抱える彼。また思い出したんだねなにをしでかしたか。
そんなところを見たら女の裸を見たであろうことは想像できた彼女もさらに心配になってくる。
(こ、この反応は裸を見た以上のことをしたってこと? マジでなにしてきたのよ兄さん!)
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