第537話
「……」
ぽけぇ~っとした顔でふらふらとぼとぼ歩く少年が一人。
先ほど舐められ、重ねた唇を撫でながら自分達の部屋へ向かう道中なにを思うのか。
(お、俺経験者になっちゃったんだよな。実感ないけど。あの話が仮に嘘でも、少なくともキスはさっきしたし。てかなめっ、な、なめられたし……)
「~~~~~~~っ! くぅぉぉぉぉぉ……!」
思い返すととんでもないことをされたもんだと悶絶。
しかもそのキスの相手が少なくとも彼にとってはとびきりの美人。
あ、ちなみに彼がよく見るアダルトコンテンツは大体清楚系だったり和系だったり黒髪が多いよ。
つまり、彼女はもろタイプなんだよねぇ。少なくとも見た目はね。
だからただ女性にされたんでなく。タイプの女性にされたんだからそりゃあもう昂っちゃうよね青少年。
ふふふ。微笑ましいこと。
やってることエグいけどね。
(なんか、今が夢みたいだな。でも、現実。これは現実。やらかしたのも現実……うぅ)
今度は別の理由で悶絶。犯罪行為をしちゃったらそう簡単にはぬぐえないものだね。ちゃんと悪いことしたって自覚があるなら尚更さ。
(あの人の考えてることはよくわかんないけど。優しい人だよな。襲っちゃって悪いのはこっちなのに気遣ってくれたし。明日同じことしたら許してくれるらしいし。というか、そもそも怒ってなかったみたいだし。……てか)
綺麗と言ったらこんなことになった。また抱けることになったんだよね。
許してくれたことも相手が彼女だったが故の幸運だし。またヤれるというのもまた幸運。
彼、一生ぶんの運を使い果たしたね。確実に。
ま、釣りがくるなんてもんじゃないけど。この先の未来を思えばね。
(とにかく。今夜は頑張らないと。あの人が満足のいくように。……具体的にどうしたら良いかわかんねぇけど)
経験人数一人。加えて夢見心地だったから実質経験値ゼロ。
そんな男が女を満足させるのは難しいね。
ただ、彼女はただ激しくしろと言っていたわけで。欲望叩きつけたらそれで解決なのだけど。
そこまで頭が回る彼ではなく。頭を抱える。
そして何度も何度も彼女との会話やらやりとりを思い出してまた唇に触れて思いを馳せると。
無限ループかな?
「…………くんくん」
そこでなにを思ったか、唇に触れていた指を嗅ぎ始める。
まぁ……うん。わかる。わかるよ。男の子だもん。思春期だもん。そういうことしちゃうのはわかる。キモいけど。そういう生き物だものね。仕方ないね。
その行為自体は咎めることではないと個人的には思うけど。ただ場所を選ぶなり、周りは見るべきだったね。
「あれ? おはよ。こんなとこにいたんだ。ところで変な顔で指なんて嗅いでるのはなんでか聞いて良い?」
お陰で明け方に目が覚めてジュースを買いに来た妹分と鉢合わせることになっちゃったわけだし。
ジュースを飲みながら三白眼で見つめる妹分を前に、彼は鼻の下が伸びた顔から気まずげな表情に変わっちゃった。
「……頼むからやめて」
「そう言われると聞きたくなるのが人間ってものだと思うんだ。こんな時間に部屋にいない理由込みで」
「さ、何してたか聞かせてよ」
彼の何かあったんだろうな的な反応から俄然興味が湧いてしまい、逃がすという選択肢は消え去りましたとさ。
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