第535話

(はてさて。目的は果たしたけれど。どうしよっか)

 罪は教えたけれど。では罰は? 説教は? というお話。

 正直彼女にとっては夢と聞いた時点で話を切っても良かったのだけど。約束は約束なので果たしたまで。

 律儀だこと。

 おっと、彼女が悩んでいると。

「ほんっっっっとうにすみませんでした!」

「……!」

 彼は頭を畳にこすりつけるように土下座。

 これには彼女も面の下で驚きの表情を浮かべる。

「ちょ、ちょっと!? な、なにしてるの?」

「襲ってしまって! 本当にごめんなさい! 謝って済む問題じゃないのはわかってますがけど。俺、他にどうしたらいいか……。俺にできることならなんでもしますからっ。警察に連絡するならしてください。償えるなら本当にどんな風にでもしてください!」

「え、えぇ~……。あ、謝れるのはええことやけど……。えぇ~……」

 彼、ひねくれてるけど。同時に小心者ではあるからね。罪悪感に耐えられないくらいには。

 女性経験もないし。記憶の中で襲ったのが華奢な大和撫子立ったもんだから余計に罪の意識も大きい。

 美人だろうがブスだろうが犯したら同じ罪なんだけれど。人ってのは容姿の良し悪しで罪の意識、その度合いが変わるからねぇ。仕方ないね。その辺りは。

 そして、彼女もそれはわかってる。人間がそう考えることは。だから、甘いんだけど。和らげてあげようってなっちゃうわけ。

 ちゃんと謝れる子だから余計にね。

「ほ、ほらこの顔見てみ? 寝ぼけてたから盛大に勘違いしとったやろ? ほらほら。こないな醜女しこめ相手にしてもうたんやから、ぼんも被害者みたいなもんやよ? な? せやから頭あげたって。ね?」

 面を外して顔を晒して、彼女もテンパってるんだよ。

 女性に乱暴したって罪の意識をブスとシたって後悔に置き換えようとして。

 一度顔を見られたから良いやって感覚なんだろうけど。彼女の予想通り寝ぼけて顔を勘違いしてたんなら誰にも見せてこなかった顔を初めて晒してるのと変わらないもの。

 そこに気づかないくらい。彼女、テンパってる。

 あ、ちなみに。

(角折っといて良かったわ)

 昨夜のうちに角は折ってるんだよね彼女。確認のために顔を晒すことは想定してたから。

 せめて鬼ってことだけは隠そうとした結果ね。

 で、顔を見た彼は当然ながらこう思うわけ。

(夢じゃなかった……。本当にこんな美人を俺……。いや、夢はあった。本当のこの人には角はなかった。あったら大問題……。いや、大問題をやらかしてんのは俺だって!)

「………………いや、あの。お気遣いいただかなくても大丈夫です。自分のしたこと……わかってますから……」

「き、気遣いやのうて。むしろ坊が気遣いというか勘違いしとるゆーか。ほんまにこんな醜女ブスとしてもうたんやから。それが罰みたいなものやし……」

「……え、えっと。お綺麗なんですから、自分のことブスとか言わなくても良いです……。全面的に悪いのは俺ですから。本当にすみません!」

「はえ?」

 謝罪は耳に入らず。彼女の耳に残るのは二文字だけ。

「き、綺麗?」

 その言葉、だけ。

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