第503話
「起きろ」
「……!」
少し力を入れて踏もうとした瞬間。さすがに危機感を覚えたのか、カナラがリリンの足を掴んで止めおった。
ダメージ食らいそうなのには反応するのに無害なら放置って器用というかなんというか……。
「あ、おはよリリンちゃん。坊。はら、結嶺ちゃんもおはよ」
「お、おはようございます」
あまりにも自然に朝のあいさつをするもんだから戸惑ってるわ。
そりゃウブでこういうのには一線引く程度には真面目そうなカナラがふつーに俺の隣で寝てるわ起きても落ち着いてたら無理もないわな。
「あ、あの、艶眞さん? これはどういう……」
「これ?」
「いや、あのですね……」
「……?」
なんのこっちゃか皆目見当つかないって面されて結嶺もタジタジ。
このまま誤魔化されてくれたら良いけどそんなことにはならないだろうなー。
「は!」
と、口火を切ったのはカナラのほうか。
カナラから気づいてくれて結嶺もちょっと嬉しそう。
「ごめんなさい! いつもと顔違うのはお化粧しとらんからで……」
そこじゃねぇ。
結嶺も同じ気持ちなのか唇結んでびみょーな面してるわ。
それから、言われてみると顔が違うのがわかったようで。顎に手を当てて観察して、ぶつぶつ言い始めた。
「……」
「ゆ、結嶺ちゃん」
「……確かにいつもより少しあっさりしてる。でもむしろすっぴんのが綺麗ってどういう理屈なんだろう……?」
お。わかるヤツじゃないか。
そうなんだよ。カナラは化粧しないほうが美人なんだよ。
さすが我が妹。趣味も似てるわー。
「ふふ。おおきに。お世辞でも――わ!?」
「良いからいくぞ。貴様が着替えを用意してるんだから貴様がいないと着替えられんだろ」
カナラを影で縛りあげて持ち上げるのは良いんだけど。
わざわざ亀甲縛りっぽくするのはいかがなものか。
「ついでに犬と娘。貴様らもいくぞ。コロナは……面倒だしいいか。助け船も一隻くらいは置いていってやる。そら、開けろ」
「はぁい。ほな、三人とも。後でね。ふぅ~」
ロッテと灰音も同じように縛り上げると、カナラが煙を吐いて中に入っていっちゃった。
さっきも言ってた通り着替えに行ったんだろうけど。それよりもあの言い方って……。
「……こほん。では兄様。話の続きをしましょうか。なぜたくさんの女性に囲まれて寝ていたのか」
「話ったって……。特に言えることなんて……。見たまんまとしか」
「不潔」
「合意なので」
「そういう問題じゃありません!」
「そもそも問題がないんだって」
「あります! まだ学生なのにふしだらでしょう!?」
う~……。身にならねぇ説教が始まった。
ただれてようが不潔だろうがふしだらだろうが。俺たちにはそういう倫理観とかもう関係ない次元なんだって……。
いわゆる人間じゃないんだから。
つっても生理的に無理ってだけなんだろうけど。兄が複数の女に囲まれてるってのが。
カナラが普通にいたのも不満なんだろうな。カナラには比較的好印象だったっぽいし。
初対面でも俺の部屋に入り浸ってた通い妻に見えてたはずなのに。不思議なもんだ。
「兄様はもう少しそのあたりしっかりしてですね――」
で、お説教がしばらく続きそうなわけでさ。それでよリリン。お前があんな言い方しなきゃうやむやにできたかもしれないし。なによりもさ。
「ふすー……ふすー……」
コロナがなんの助けになるってんだよバカ。
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