第498話

「ん~……! やっぱ日本こっちのが良いなぁ~」

 アレクサンドラとクレマンの試合後すぐ。帰省していたマイクは日本に戻ってきていた。

 苛烈なシーンを見てしまって、いてもたってもいられなくなってしまったから。

(といっても、まだ冬期休暇だし。特にできることもないんだけど)

 学園の施設は使えるものの、一年E組の皆は帰省だったり旅行だったりで誰もいない。

(母国あっちにいてもなんか落ち着かないし、戻ってきちゃったけど……。家族といたほうがまだ良かったかも?)

 軽く逆カルチャーショックもありつつ。魔法の訓練のために施設を利用することもできず。やれることは家族団欒とストリートスポーツくらいなもので。マイクにとってはやや物足りないというかなんというか。

(ストバスも悪くないけど。体鍛えまくったりセンスも磨いちゃったもんだからちょっとね……。魔法なんて使った日には大人と子供だもんね。仕方ないよ)

 元々肉体の才能には恵まれていた男が生き死にのサバイバルを経験し、同級生には化物じみた連中もいて刺激的な日々を過ごしてきてしまえば常人では満足いくわけもない。

 仮に、唯一の日本こっちでの友人に冷たく扱われていたとしても。ただその姿を見るだけで心踊るものだ。

 ……同性愛的な意味でなく。

(ま、才からしたら僕が物足りないんだろうね。僕も才の相手が勤まるくらいは目指したいけどこれがなかなか……)

「ふん!」

(いけないいけない。ネガティブになっても仕方ない。できることを考えよう)

 自分に気合を入れつつ、マイクは学園に戻る。

 その道中。

(あ、そう言えば髪も伸びてきたし。ちょっといじりたいな)

 思い立ったが吉日。マイクはたまたま目に入った美容院に足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ」

「……アメイジング」

 出迎えたのは黒髪ストレートの美容師さん。

 あっさりとしたメイクに艶やかな髪をした美容師としては少々珍しいシンプルな和系を基調した人だ。

 カナラの一件でもわかる通り。もろマイクのタイプ。

(と、いけないけない。僕は紳士。それにここはお店。ナンパしにきたんじゃない)

 理性を発揮して衝動は一言で抑え、案内を受ける。

「今日はどういった感じにいたしますか?」

「そう……ですね……」

 椅子に座ってどうするか尋ねられるも。担当してくれるのがたまたまさっきの黒髪お姉さん。

 緊張してしまって上手く頭が回らない。

「思いっきりイメチェンしようかなとかはあるんですけど具体的には……」

「そうですかではカラーリングとかはどうでしょう? 少し明るめにするとかでも大分変わると思いますが?」

 美容師さんのその言葉で、マイクは閃く。

「……それじゃあ――っていうのはどうですか?」

「かしこまりました。では始めますね」

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