第494話
「少々手荒な真似をするが勘弁願う」
「……は?」
一応保護者に断りをいれて、雪日は二人の振るう訓練刀の間に割って入る。
「「……!?」」
闖入者に驚き、同時に雪日が行ったことにさらに驚く。
なにせ、目にも止まらぬ速度で振るわれる訓練刀を左右の小指でそれぞれ受け止めたのだから。
「邪魔をして悪いな。あまりにお粗末でつい手を出したくなってしまったんだ」
(さて、乗るか?)
軽い挑発をして、二人が向かってくるように仕向けてみるが……残念ながら二人とも目をぱちくりさせてまだ驚いていた。
「って、あれ? 貴女はたしか艶眞さんの……。お久しぶりです」
「……ん。あ、そうか。私の顔を見るのは初めてか」
そして声を聞き、立ち居振舞いを見て夕美斗が雪日に気づく。
学園にいるときは袴に仮面をつけていたので、素顔を晒すのはこの日が初めて。
「夕美斗。この方はお前の知り合いだったのか」
「あ、父さん。えぇまぁ。学園の友人の……
「……」
「おっと」
「……!」
来客に加えて会話が始まり、中断と判断して訓練刀を下げようとしたところで雪日は小指だけで掴む。
小指だけとはいえ筋力は比ではなく、ピタリと動きを止めてしまう。
「乗ってくれなかったものだから回りくどいのはやめてハッキリ言おう。臨時だが私が今から稽古をつけてやろう」
「え、あの……」
「ふっ」
「ぅわ!?」
「……!」
一息吐くと同時に小指から訓練刀、そして二人の体へ力を伝えて夕美斗と瞬を転がしてしまう。
「ここが戦場なら何度殺されていたかな? どんな経緯や状況、状態でも最低限気は張れ。お前たちはすでに殺し合い程度なら経験済みなんだろう?」
実際に見たわけではないが、カナラからちらほら聞いた話の中でそういうのも聞いた記憶がある。
例え模擬であっても死闘を演じるならば、そっちの世界に行くのは必至。想定は必然。
そう考えるが故に視野の甘さとただ打ち合うだけの修練としての雑さを体感させようと雪日は割って入った。
「ほら、返す。かかってこい。二人でな」
「いたた……。な、なんで急に……」
「技術もあり、加減もできる武人が相手をする。そう言っているのに戸惑って時を失って良いのか? 機会を失ってしまうぞ?
「……そう、ですね。私はともかく瞬には良い経験になると思います」
「……」
訓練刀を手に取り構える夕美斗。その姿と姉の言葉を聞いて瞬のほうも訓練刀を掴み、気を張りながら臨戦態勢を整える。
(良い気合だ。しかし常に戦場にその身があるかのごときが理想。その辺りは徐々に作り上げれば良いがな。故に今私がくれてやるのは――)
「では始めよう。私の刀はこの小指二本。足は蹴りを封じよう」
「え、あのそれでは……」
「気遣い無用。お前たち未熟者には
(たしかに、学園で相手してもらったときも軽くいなされてばかり……)
「わかりました。ではお願いします」
「……」
改めて気合を入れる夕美斗。二人の父も止める様子はなく呆けている。
であればあとはもう。
「はっ!」
「……!」
斬りかかるのみ。
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