第476話
「誰がそこへ至らせようとするのか。グリモアとはなにか。それはまだわからない」
ん? 今、違和感が……。
なんとなく……今のは……嘘っぽいぞ?
けど、結嶺がいるから話すもりがないのかな。こっちへ引き込むとか話しておくとか言っておきながら。ますます意図が読めない。
「だが、突然今までの生物とは違うものになるんだ。どうしようもないことも出てくる。例えば――」
ん。こっち来たけど……って、おい。なにやってんのお前。
「な、なにを……」
兄貴が人間じゃないと聞かされて、その余韻が残ったまま関係を持ったであろう女と顔寄せてるとこ見たら混乱増し増しになって当たり前だよなぁ~……。
でもきっと大事な理由があるはずだから耐えてくれ。
……なくてもやることあるけど。
「我ら血族はマナの強い者を好む。そして、我もこいつもマナが強い。その上で我らの影響を受ければどうなるか……わからんほど子供でもないよなぁ?」
「それは……はい。じゃああの子は本当に」
「まぁ一応な」
視線が灰音の方へ。
うぅん……。俺も認めたくないとこなんだけど。紛れもなく俺とリリンの遺伝子は引き継いでるよ。
「ということでよろしく頼むよ叔母上さん」
「はは……そう……なるよねぇ~。私も知らないうちに叔母さんかぁ~……」
おばってワードで別の意味で顔ひきつらせたな。すぐ戻したけど。
「新しい家族……喜ばしいですね。この子は私たちのようにならず、できるだけ普通に近いような生活をして健やかに育ってほしいな」
「「……」」
やっべー。表情変わらずともあのリリンが黙っちまったくらいやべー。
す、すまん。結嶺。俺たち、そいつに優しくないです。悪い親なんですごめんなさい。
「これからよろしくね。えっと……お名前は?」
「灰の音と書いて
「そう……あのときに。すみませんリリンさん。それだと兄は出産に立ち会えなかったんじゃないですか?」
「まぁ……な。立ち会ってはないな」
お。上手く誤魔化してくれたな。本当はあのとき俺の中にいて一部始終視てたからなこいつ。
その調子で俺たちの虐待についても黙っててくれ。さもなくばもっと酷いぞわかってんだろうな?
「ってことはまだまだ赤ちゃん……あ、でもそっか。私たち基準で考えたらいけないね。言葉もしっかりしてるし」
「そんなことないよおばうえ。まだまだあまえたいさかりだよばぶぅ~」
「あ、ふふ。そっか」
灰音を抱きかかえる結嶺。撫でる手つきも優しくて微笑ましいんだけど。なんだろうね? 釈然としないこの気持ちは。
「あ、髪とかはリリンさんに似てるけど目元は兄様に似てますね」
「やめくれそういうの」
「まったくだ。気色悪い」
「お二人とも恥ずかしいんですか?」
「そういうことにしていいからやめろ」
「ふふ。わかりました」
リリンがここまで露骨に嫌がるのも珍しいから見ていたい気持ちもありつつ。俺も自分の子供に似てるとかさぶいぼ立つから複雑。
でも、あれだな。
なんか、灰音のお陰で結嶺が落ち着いてよかったよ。
俺も結嶺も幼少期からアレだし。今度は自分達が育てる側の立場ってんで責任感が優先されたんだろうな。結嶺は俺と違ってまともだし。
「あぁ~……おばうえやさしくてすきぃ~」
おいバカ灰音こら。際どいワード出してんじゃねぇ。
じゃあ両親は? ってなったらどうすんだ!
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