第468話

 ――グシャ


「宜しかったのですか?」

「ん~?」


 ――バキ……ッ! ……バキキッ!


 城を下りる道すがら、先の魄のについて尋ねる修蛇裸すだら


 ――ズズ……ズズズ……ッ


「あのような約束。恐れながら囚われの身とはいえやつは昔よりも……。私とて刺し違えるつもりでなければ首は取れませぬ。故、如何に煙魔様といえど傷一つ負わぬと言うのは些か……」

「あ~。かまへんよ。もう生かすつもりもないし」

 傷を負おうがなにをしようが。始まれば逃がすつもりもないと。カナラはそう含みを持たせ、修蛇裸すだらも意図を汲む。

「なるほど。ようやく処されますか。宜しいかと存じます。遅すぎたやもしれませぬが……なに。煙魔様が腹を決められたならばそれこそが僥倖かと」

「けじめ……つけるには遅すぎたような気もするけど。でも、きっとに残してたんやなぁ~」

「この為……とは?」


 ――ミチ……ミチミチ……ミチチ……ッ


「なんちゅうか? こう、私がやる気になったときに手っ取り早く叩き直せるすべみたいな? あれよあれよとなぁなぁにしとったけど、今になってとっといて良かったぁ~! ……みたいな?」

「だから――


 ――……とっ……とっ……ととっ……と……っ


 穏やかな口調。ゆったりとした歩調で話す傍らは二人に反して周囲は凄惨な情景へと成り果てていた。

 二人を除く全ての人ならざる者たちの目は虚ろになり、ほとんどがボーッと突っ立っている。

 そして十人いればその内一人が残りの九人を千切り。引き裂き。折り曲げて。織り曲げて。骨を砕き。細かくしては丸めて。溢れて畳に染みた血までも啜り、九人分の肉団子を顎が砕け落ちようが喉が裂けようが無理矢理腹に収めていく。

 頸椎も鎖骨も肋骨も折れたか砕けたか。腹の中では内臓は潰れたか胃は裂けたか。

 詰め終わると上手く骨を砕けていない個体もいたのだろう。骨が腹を突き破ってしまっているのもちらほら。

 そうでなくとも如何に人ならざる者とて九人詰め込めば皮膚に亀裂も走ろう。

 人ならざる者たちは人の形をやめ、肉塊の肉詰めと成り果てた。彼らはよたよたと歩き上階へと向かい始める。

「全く……あの悪食大食姦あくじきたいしょくかんめ。この城の咎人全て食らう気か」

「大方の予想通りやけどね。ま、私と斬り合おうゆうんやから備えとるんやろ。あ、あとで刀でも渡しといて。なんでもええから」

「かしこまりました」

「渡したら引き上げてもええよ。でも、他の城には回っといてな?」

「足りなかった時にやつが喰らいに行くからですね?」

「うん」

「ここの連中は既にやつ済みでに収まっていたので瞬く間に終わりましたが。他の城ではそうも行きませんからね。屈する前にいくらか暴れましょう」

「したら監視てる子らが巻き込まれかねへん。そらぁあかんからね」

「ただで殺られるほど柔な姉妹共でもありますまいが、被害はないに限りますれば」

「そそ。せやからよろしゅうね。修蛇裸すだらくらいしかあれと対等なのはおらへんから」

「ふふ。そうですね」

 対等なのは修蛇裸すだらしかいない。つまりということ。

 暗に、魄が強いのは認めているが自分の敵に値しないと言っているのだ。例え――。

(はぁ……。まぁでも。ど~しても気ぃ入ってまうよね。の同類思たら早う素っ首叩っ斬りとうて威ぃ絶つのも辛いわ)


 ――例え魄もアノンと同じシステムに選ばれた者だとしても、今のカナラには並び立てない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る