第464話

 カナラのいる拠点ところを地獄とすれば、狐狗が住む場所は畜生。

 であれば、他にも六道にちなんだ星があっても不思議ではあるまい。

 現在、カナラが赴いた場所は言うなれば修羅。

 丁度才たちや人としては才能ある結嶺を自らの根城へ呼び寄せるならば、ついでにこの場の様子を確認しておいて。都合が良ければ連れてこようと思い先に足を運んだ次第。

(懐かしや。相も変わらぬ。血の香り)

 くろと、それより少し明るいあかで彩られる血痕斑柄けっこんまだらの大地を進み、足を止め見上げるは厳かな牢城。

 この中にはカナラの同類ながらカナラに歯向かい、罪人扱いの怪が詰め込まれている。

 ただカナラの下につかないというだけならばこんな場所を用意しない。

 ここにいる者は漏れなくカナラの身内に手を出した者であり。同時に、カナラの桃を口にして人ならざるモノ。

 ……今、カナラが束ねている家族が姉妹や娘と女しかいない理由もここにある。

修蛇裸すだら~。来たよぉ~」

 少し離れた場所から城の入り口である巨大な門に話しかけると――。

「開・門!」

 直ぐ様内側から声が轟く。

 ビリビリと肌を刺激する号令により、門が開け放たれる。

 

「開いたぞ! こいで自由じゃ!」

「退け! 儂が先や!」

「やかあしい! 貴様ら全員あん鬼に食われ……と……れ……」

 みすぼらしい薄汚れた白装束を纏う痩せ細ったが氾濫の如く勇んで門の外を目指すが、門の外にいるカナラを見ると勢いは枯れ川のよう。

「「「……」」」

 そして流れは完全に止まり、やがて男達の背中には悪寒が走り、全身から汗が噴き出し震え始める。

 其の気配を忘れるわけがない。其の仮面を忘れるわけがない。

 例え角が折れたとて、不浄の鬼頭にして神殺しとまで呼ばれた目の前の怪物を忘れられるわけがない。

「あぎゃあ!」

 立ち止まっていると、やがて後ろから風切り音共に悲鳴が聞こえてくる。

「ひやっ!?」

「や、やめてく……っ!」

 一つ、二つと男達の悲鳴は増えていき、共に漂う男達のすえたような臭いに混じる新鮮な血の香り。

 瞬きの沈黙は鳴りを潜め、代わりにどよめきが広がってゆく。

 元凶から逃げたくとも門の外にはそれを越える怪物カナラがいて進もうにも肉体が拒んで足が動かない。

 かといって下がれば、退けば、戻れば元凶により早く鉢合わせてしまう。

 前門の虎、後門の狼という言葉があるが。もしそれと変わってくれるならそれに勝る喜びはこの男達にはなかろう。

 所詮は猫と犬。鬼の頭とその配下に比べれば恐るるに足らぬ。

「そら、手間かけさせんと戻り。修蛇裸すだらもその辺にしといて納め」

 鶴の一声。カナラの言葉が入ると悲鳴も風切り音も止み、それを確認すると男達はおずおずと城の中へ戻っていった。

 数百か数千か。はたまたもっといたであろうか。

 人の波は完全に引き、残されたのは二人の

「お久しゅうございます煙魔様。手荒な出迎え大変申し訳なく」

 袴姿で太刀を二本と脇差しを一本携えた二本角の鬼女がカナラの元まで駆け寄ると直ぐ様拳を地に立てながら挨拶をする。

 彼女がこの星を取り仕切る鬼武者――修蛇裸すだら

「かまへんよ。にしてもいくら時を重ねても元気やねぇ~」

「ハッ! 相も変わらず数百年の時を重ねようとも桃の力は衰えず。奴等、常日頃活きが良いまま城内で暴れております」

「そら退屈せんで良さそやねぇ」

「故、我が手も鈍る事許されませぬ」

「ほうかほうか。っと、今はあんま時間あらへんのよ。早々に用事済まさせてもらうわ」

「ハッ。鈍った体を戻したいとの旨は狐狗より聞き及んでおりますれば」

「うん。その為にここの一番の咎人に顔見せたろ思てなぁ~」

「というと……なるほど。ヤツにございますか」

「そう。今日はあの子に一言二言言いに来たんよ」

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