第456話

「これ……から?」

「そう。これからだ」

 紅緒にニコりと笑いかけ、続ける。

「まず、これからは不定期だが君たちに接触しよう。というか色々と依頼や課題を出すことになる」

「理由は?」

「君ならわかるだろうオーガスタ。少し前に異歪者ディストレイがこの星に向かい始めているのは掴んでいるだろ。それに対抗するために鍛えてやろうって話さ。システムは綻び、バグのせいか干渉力が衰えている。私が対抗できる程度にね。だならヤツ異歪者てごまを使って物理的に始末しようとしてるのさ。私も自分でそれなりに戦うことはできるが、あくまで私の本質は支配。闘争じゃない。同じ支配の力を持つ相手。それも根元やそれに類するモノとなれば部が悪い。だから君たちにシステムの手駒たる異歪者ディストレイを逆に潰してほしいのさ。リソースを割いている手駒を潰せばそのままシステムの影響力は落ちて私がつけえる隙もできるだろうし。あ、鍛えるのは当然君たちだけじゃないよ。君たちが素質有りと認めたモノもじゃんじゃん鍛えてやるつもりさ。シンクロニシティによるインフレは進めているが、それだけじゃ経験値は積めないからね。舞台は私がいくらでも用意できるから遠慮せずに粒を揃えてほしい」

 アノンの提案はこう。一年か二年後にやってくる異歪者ディストレイに対抗するため、自分が練習のための星庭ぶたいを用意するから素質のある者は全て鍛えようとのこと。

「フム。話は見えてきたが、何故そいつらを殺す必要がある? 面白い相手ならば言われずとも相手をしてやるつもりではあるが……」

「フフフ。疑問を持たずに君は今まで通り手のひらの上で転がってれば良いんだよと言いたいところなんだけどね」

「……」

「睨むなよ。事実だろう? 私が運命をいじらなきゃリリンかれに会うことはできなかったんだから」

「それが真実ならば感謝はしてやるがな。気に入らんが」

「感謝までは必要ないけれどね。私の目的のために君たちには強くなってもらわねばいけなかったんだから」

「ところでその目的ってなんなんだい? 神に成り代わろうってんだから大層な理由があるんだろうけど」

 質問したのはネスだがこの場の全員が興味を持つ事柄。

 神に近く。神を落とし。宇宙せかいの支配すらも視野にしているかのごときスケールの話をしているのだ。気にならない方がおかしい。

 しかし、アノンの口から出た言葉は意外な気持ちにさせる。

「別に? システム保身バグのせいで私の娘から生の喜びが失われたんだ。だから腹いせに一度ぶち壊して組み立て直してやろうってだけさ。そうしたら私も四次元、ひいては五次元に達して色々と遊びも増えるだろうけれど。そんなのはついでさ。私はただ、娘にやり直してほしいだけなんだよ。五体満足にある人としての生をね」

「「「……」」」

 娘に元気になってほしい。

 詰まるところアノンの願いと目的はソレだ。

 親としては正しく。けれど理を壊さんとするのは人として間違っている。

 だが、それはあくまで人の決めた倫理の話。

 最早アノンは人の基準を越え、善悪という概念が介入できない次元にある。

 けれど、それでも彼女アノンは。今でもひとであろう。

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