第438話

「あ、坊♪」

 うっわ。待ってるときは目ぇつぶって澄ましてたのに俺を見つけた途端満面の笑みだよ。

 しかもよく見たら今日は

 そら注目もされるし誰も話しかけられないわな。高嶺が過ぎるもんよ。

 そんで――。

「「「……」」」

 今度は俺が注目を浴びると。

 そらこんな美人が寒空の下待ってたのがこんなパッとしない男じゃあねぇ。無理もないわな。

 いや、これでもリリンの影響で骨格とかシュッとしたんだけどね?

 ただ根にある陰が邪魔してるってことなんだろうよ。

「……っ。……っ」

 忙しなく目をキョロキョロさせてらぁ。

「……っ! ……っ!」

 いやいやどんだけソワソワしてんだよ。目ん玉ぶん回りすぎ。

 落ち着け……って言いたいとこだけど。目に見えてお澄まし顔から昂った顔に変わると周りの目もまたカナラに戻っていくわけで。当然ながら。

 こりゃあ俺の注目度奪ってくれてありがたいわけだよ。すぐあっち行かなきゃだからあんま関係ないけどさ。

 ま、束の間のヘイト(?)稼ぎありがとうってことで。さっさと行ってやるとするかね。

 ……だって。

「……っ! ……っ! ……っ!!!」

 これ以上は色々と人に見せちゃいけない顔になっちまう。つい数秒は落ち着かなくて良いと思ったけどあれはダメだ。今回ばかりは焦らすのはよくない。

「お、おはよ。坊」

「おう。おはよ」

 こいつがこっちに居着いてからほぼ毎日顔合わせてたから、その日の初顔合わせが駅での待ち合わせってなんか新鮮。

 ここまでテンパる……のはまぁ割りと見るからある意味慣れ親しんでるけど。

 さて予定……を聞く前に。まずは義務を果たそうか。

「カナラ」

「ん? なぁに?」

「その着物。似合ってんな」

「――」

 絶句……ッスか。

 せめて反応してほしかったんだけど。相づちとか。

「……」

 いやいつまで黙ってんだよ。

 俺結構お前の顔とか体とか一番好みって伝えたりしてなかった?

 いやまぁ体に関してはセクハラだけども。

 嫌がらないからついね。つい。むしろこいつの場合喜ぶから。セーフってことで。

 と、んなことより。早く正気に戻さないと。

「おい」

「……」

「おいって」

「……」

「せい」

「ぁいたっ!?」

 デコ小突いてやっと目覚めたみたいだな。手間取らせおってこの女。

「なに呆けてんだよ」

「だ、だってなんや今日は坊もおめかししてはったから……。私のために」

 お前のためにお洒落は……まぁしたつもりではあるよ。

 変にならない程度にコートとストールは選んだし。

 で、も。お前ほど気合は入ってないぞ~。少なくとも。

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