第437話
さて、駅まではスムーズに来れたな。
いや~コロナがぐずらないだけでこんな楽だなんて。このまま健やかに大きくなっておくれ……ん?
「……」
おうおう綺麗な姿勢で佇んでるよ我らがカナラが。
で、こういうときのお決まりで声かけられたりするとおもうんだけど……。注目浴びてる割りに遠巻きだな老若男女問わず。
カナラの着物姿が堂に入り過ぎててチラ見しかできてねぇもん。
あ、新たなパターンだな。うん。これはさすがと言って良いんだろうか? 悩みどころ。
さてと。寒空の下待たせるってのもアレだし、さっさと行って……やりたいところではあるんだがしかし。その前にちょっと気になったことがあるからそっち先だな。
「おい小僧。なんのつもりだ。待ってるのは私じゃなく煙魔様だろうが早く行け叩っ斬るぞ」
「いやこんなとこで抜刀はさすがに洒落にならないなら。てかなんのつもりかはこっちの台詞」
カフェ内からカナラを上から見張りやがって。
しかもいつも袴だし、こっちにいるときは仮面までつけてるのに今日は洋服たぁ気合(?)入ってますね雪日さん。
「よいしょ」
「座るなッ」
「騒ぐなって。お店に迷惑」
「この男は……フン! あぁむっ」
おうおうさすが日本人。周りの迷惑とあっちゃあ引き下がるしかないわな。
鼻息荒げながらケーキ食べちゃってかわいいこと。
「で、なんでそんな格好でカナラ見張ってんの」
「……今日はお気に入りの着物の一つに手をつけていたから少々気になっただけだ。余りにも美しい姿に男が群がることも考えられた……んだが」
「逆に気品ありすぎてだーれも近づこうとしてねぇな」
つまり当初の心配は杞憂に終わったわけだ。
「じゃあなんでこんなとこでそんな格好でケーキ食ってコーヒー飲んでるんだよ」
「明ける前から煙魔様の気配を辿るのに集中して朝食をとってないからついでに済ませてる」
朝食でケーキですか。まぁこの人は昭和生まれだったはずだから洋菓子とか珍しいか高級だったんだろうし気になりはするか。
「が、お前が来たんなら私も長居は無用。食事を済ませたら出掛けるとする」
「ん? あんたもどっか行くのかよ」
「あぁ……。前々から煙魔様には断りを入れてたんだが中々機会がなくてな。けど、学校も休みに入ったひ、向こうも一通り年末年始の準備も整ったから今足を運んでみようと思ったんだよ」
「へぇ~……どこに?」
「……弟の道場。本当は親よりも前からやってたんだがな。我流だったし、高尚な目標は掲げつつも門下生のほとんどいない小さな道場だったよ」
「……」
なんか知らないけど語ってくれてるからちょっと黙っとこ。
「けど、戦争のとき跡形もなく消し飛んで。そのまま私たちの武道は終わったと思った。でも弟は諦めずにいつかまた始めるんだと息巻いてて。それから大日本帝国復興……ってときに神隠しにあってそれっきり。煙魔様に侍って時は流れてしまった」
……今思うと、簡潔だけど歴史の生き承認に話を聞いてるんだよなこれ。ちょっと感動してきたかも。
それで、どうやって弟さんの道場ってのに行き着いたんだろ。
「こちらに煙様が来るとなったとき、色々と調べて。そのついでに実家のこともな。駄目元だったのにあっさり名前が出てきて驚いたものだ。前より門下生もいるし、当代でも色々と頑張ってるようで有名になっていたしな。さらに次代にも期待できそうだったよ」
話していくうちに表情が柔らかくなってる。
ここで俺のことを思い出したらまた鬼みてぇな顔になるだろうからできるだけ気配を消して空気と同化を意識しよう。
「本当に……色々と……。私がいなくなったあとも頑張ったんだな……――って、なんで貴様なんぞに身の上話をせねばならんのだ!」
いかん。気配消しすぎて逆にわかりやすかったかもしれない。一瞬で戻って来やがったよ。
「さっさと煙魔様のとこにいけ! このろくでなし!」
「はいはい。でも最後に一つだけ良い?」
「……なんだ」
「あんたのフルネームってなに?」
「何故そんなのが気になる?」
「いや話聞いてたら実家は有名みたいだし。気になっただけだよ」
「……はぁ。言えば今度こそ向かうな?」
「あぁ」
聞かなくても行くけどな。
それに、見当も大体はついてるし。
「私の名は――」
――
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